研究課題/領域番号 |
20K11491
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
坂下 玲子 熊本大学, 大学院教育学研究科, 教授 (20178552)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 運動遊び / 体育授業 / アフォーダンス / ケアリング / 共感 |
研究実績の概要 |
本研究では、生涯にわたって能動的に学び続けることができる資質・能力を育成するために、保育及び体育授業における子どもの「主体的・対話的で深い学び」のためのアフォーダンス特性の援用について明らかにすることを目的としている。 令和2年度は、本研究課題についての理論的基盤を固めるための文献資料収集を行った。アフォーダンス(affordance)とは、アフォード(afford)を名詞化したギブソンの造語であり、「環境が動物に与え、提供している意味や価値」である(佐々木、2015)。アフォーダンスとは「環境の事実であり、行為の事実でもある」とされ、一つの言葉で、環境と行為の両方をあらわす(佐々木、2015)という点が、動きを伴う運動遊びや体育において有用であると考える。アフォーダンスは、ものづくりや建築など様々な領域において浸透している(佐々木、2015)が、スポーツ教育においては、これまで社会的環境に関する研究が中心であったが、自律的な学びのためにアフォーダンスの視点を取り入れた物理的な環境の必要性に関する研究(高橋徹ら、2013;2015)がみられる。また、アフォーダンスの視点を体育授業に取り入れたものとしては梅澤(2016)、富永(2020)らの実践的研究が見られるが、数は少ない状況である。 一方、保育・幼児教育の世界では「環境による教育」が強調されており、子どもたちが豊かに遊び育つ環境を用意すること(汐見、2013)、そしてモノと丁寧に対話をする環境が大事にされている(佐伯、2013)。保育においては、モノとの対話や豊かな環境を考えていく上で、ケア/ケアリング、共感(empathy)が大切にされており(佐伯ら、2003;2007;2017)、本研究においても、これらの視点を加えていくことの必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度は理論研究を中心に行う計画であった。体育・スポーツ分野におけるアフォーダンスの視点は、体育哲学領域において散見されたが、スポーツ教育、体育科教育においては多くは見られなかった。一方、「環境による教育」が重視されている保育・幼児教育においては、遊びや保育の中におけるアフォーダンスの視点が数多く見られた。運動遊びや体育授業におけるアフォーダンスの援用のために、当初考えていたインクルーシブ、ユニバーサルデザインの理論に加えて、ケア/ケアリングや共感(empathy)の理論の必要性が見えてきたことは、本研究において重要な視点となった。 理論研究と並行して運動遊びや体育授業の観察に着手する計画であったが、新型コロナウイルス感染拡大により、移動が制限される中、このような状況下における観察を見送ることとした。また、新型コロナウイルス対応に時間が割かれ、本研究に予定していた時間を十分に取ることができなかったことから、(3)やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究において本研究における必要性が見えてきた、保育のなかで重要視されているケア(二人称的「共感」)/ケアリング(佐伯、2017)、共感(empathy)(佐伯、2007)について、運動遊び・体育授業との関連を、子どものからだが「開き」、からだが「動く」という視点から整理をしていく。 令和3年度も新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない状況が続いているが、熊本市内の公立小学校において、低学年の子どもたちの運動遊び・体育授業をより豊かなものにしていくためのアフォーダンス、ケア/ケアリングや共感(empathy)の視点の援用について、アクション・リサーチの手法を用いて分析、検討を行っていく。保育園・幼稚園・認定こども園、特別支援学校における観察は、新型コロナウイルス感染の状況を見ながら判断していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
6月末に海外の先行研究視察に行く予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大により中止となった。また、国内外の学会参加のための旅費を計上していたが、すべてオンラインでの開催となり旅費の使用がなかった。 令和2年度は、大学図書で先行研究の検討を進めたため、書籍の購入が少なかった。また、運動遊びや授業観察の分析に予定していた学生アルバイト費用も、観察を見送ったため無くなった。 令和2年度の理論研究において新たな視点が見えてきたので、さらに書籍等資料の収集を進める。小学校において実証研究を開始するため、授業研究機材の購入を進める。具体的には、授業を撮影するビデオカメラ、タブレット端末等である。
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