β細胞量の回復は糖尿病の根本治療になり得るものの、β細胞は胎生期以降はほとんど増殖せず、成体期にβ細胞増殖を惹起させるのは困難である。我々はβ細胞特異的にジアシルグリセロールキナーゼ (DGK) δを欠損させたマウスでは、β細胞の複製によるβ細胞増殖亢進することを見出している。本研究では、β細胞DGKδの局在制御およびその機能の詳細を明らかにし糖尿病治療標的としての可能性を検証した。 RIP-CreとDGKδloxPマウスの交配により作出したβ細胞特異的DGKδ欠損マウス(βDGKδKO)では、特に増加が認められる小型膵島の形態が大型膵島と同様であること、Ki67陽性細胞が小型膵島に認められることから、DGKδ欠損により機能的な小型膵島が増加していることが示唆された。さらにこの増加はIRS-2非依存的な経路での増加であることが示唆された。一方、βDGKδKOでは視床下部におけるDGKδ発現の非特異的な低下も認められたものの、脳特異的なDGKδ欠損では血糖値に異常が認められなかったことから、DGKδ欠損による耐糖能の亢進はβ細胞におけるDGKδ欠損の影響であることが示唆された。さらに成体期におけるDGKδ欠損が糖尿病病態に与える影響を検証するために、MIP-CreERとDGKδloxPマウスの交配を行い作出されたMIP-CreER/DGKδflox/floxマウスにタモキシフェンを5日間投与することで、誘導的β細胞特異的DGKδ欠損マウスを作製した。作製したマウスを用いて耐糖能やインスリン抵抗性、β細胞量の解析等を進めている。また、β細胞におけるDGKδの局在制御について検討した結果、DGKδSAMドメインがDGKδのオリゴマー形成およびβ細胞における核局在に関与することが示唆された。
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