研究課題/領域番号 |
20K11519
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
田中 芳夫 東邦大学, 薬学部, 教授 (60188349)
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研究分担者 |
小原 圭将 東邦大学, 薬学部, 講師 (90637422)
吉岡 健人 東邦大学, 薬学部, 助教 (50758232)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 冠動脈 / 弛緩反応 / n-3系多価不飽和脂肪酸 / ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 / トロンボキサンA2 / プロスタグランジンF2α / TP受容体 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、ラット大動脈や腸間膜動脈標本での検討結果から、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン(EPA)が血管攣縮誘発因子とされているトロンボキサンA2(TXA2)の安定誘導体であるU46619やPGF2αによる収縮反応を選択的かつ即時的に抑制することを見出した。本研究では、この作用が冠動脈攣縮の抑制に反映される可能性を検証する目的で、ヒトの冠動脈と形態学的・機能的に類似しているブタ冠動脈を用いて検討した。令和2年度は、DHAがU46619およびPGF2αによる収縮を強力に抑制する一方で、高カリウム(80 mM KCl)による収縮に対してはほとんど影響しないことを明らかにした。令和3年度は前年度の研究成果をさらに発展させ、以下の新知見を得ることに成功した。 1.DHAはU46619によるブタ冠動脈の収縮反応の濃度反応曲線に対して競合的拮抗作用を示し、pA2値は5.16と算出された。 2.DHAはヒトTP受容体発現細胞をU46619およびPGF2αで刺激して得られる細胞内Ca2+濃度上昇を非常に強力に抑制した。一方、DHAはFP受容体発現細胞をPGF2αで刺激して得られる細胞内Ca2+濃度上昇を抑制しなかった。 3.DHAはアセチルコリン、ヒスタミンによるブタ冠動脈の収縮反応を抑制しなかった。セロトニンによる収縮反応に対しては極く僅かな抑制作用を示した。 4.ブタ冠動脈のU46619およびPGF2αによる収縮反応はTP受容体の選択的拮抗薬であるSQ 29,548によりそれぞれ約90%、約70%抑制された。SQ 29,548により抑制されずに残存した収縮成分は、DHAによってそれ以上抑制されなかった。 この結果から、U46619とPGF2αによるブタ冠動脈の収縮反応に対するDHAの抑制効果にはTP受容体に対する拮抗作用が関与することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は新型コロナ感染症拡大の影響により約2か月間にわたり緊急事態宣言が発出されたことを受け、本研究課題の実質的な着手の開始は9月にならざるを得なかった。しかしそのような状況下でも、DHAが高カリウム(80 mM KCl)による収縮に対してはほとんど影響せずに、U46619およびPGF2αによる収縮を強力に抑制することを示すことに成功し、DHAの作用点のひとつがTP受容体である可能性を示すことができた。 令和3年度は前年度の実験結果をさらに進展させ、TP受容体がDHAの作用点であることを強く示す薬理学的および生化学的実験結果を得ることができた。そのうちのひとつが、U46619の濃度反応曲線に対するDHAの効果の検討である。DHAはU46619の濃度反応曲線を濃度依存性に右方に平行移動させ、シルドプロット解析の直線の傾きが1と有意な差がなかったことから、DHAがU46619に対して競合的拮抗作用を示すことが明らかとなった。さらに、ヒトTP受容体発現細胞を用いた実験結果もこれを強く支持する結果となった。即ち、DHAはヒトTP受容体発現細胞をU46619およびPGF2αで刺激して得られる細胞内Ca2+濃度上昇を非常に強力に抑制する一方で、FP受容体発現細胞をPGF2αで刺激して得られる細胞内Ca2+濃度上昇に対しては何ら抑制を示さなかった。このことは、DHAがTP受容体に対して強い選択性を示すことを意味すると考えられた。アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンなどの他の冠動脈攣縮物質による収縮に対してはそれほど顕著な抑制効果を示さなかったこともDHAがTP受容体に対して強い選択性を示す根拠となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は下記のとおりである。 1.EPAのU46619およびPGF2αによる収縮に対する抑制効果の検討。研究代表者らがこれまで検討したラット大動脈、腸間膜動脈標本では、若干の程度の差は認められたものの、EPAはDHAと同様に、プロスタノイド選択的な血管収縮抑制作用を示した。冠動脈においてもこれを検証する必要があり、プロスタノイド選択的な血管収縮抑制作用を示すのか、あるいは、DHAとは異なる血管作用を示すのかに興味が持たれる。ちなみに、研究代表者の研究室で、別の研究課題で検討が進んでいる膀胱平滑筋標本では、EPAはDHAとは異なる挙動を示すという非常に興味深い実験結果が得られている。なお、これまでの予備検討では、EPAもDHAと同様に、U46619およびPGF2αによる収縮を強力に抑制することを示す実験結果を得ている。 2.EPAのU46619の濃度反応曲線に対する影響の検討。EPAのU46619の濃度反応曲線に対する影響を検討し、シルドプロットの結果、競合的拮抗作用が認められるか否かを検証する。 3.TP受容体ならびにFP受容体(PGF2α受容体)安定発現細胞を用いた検討。TP受容体がEPAの標的となる可能性を検証する目的で、TP受容体ならびにFP受容体安定発現細胞を用いて、U46619及びPGF2αによる細胞内カルシウム濃度上昇変化に対するDHAさらにはEPAの効果を検討する。 4.プロスタノイド以外の刺激薬に対するEPAの抑制効果の検討。アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンの収縮作用に対する抑制効果を検討する。また、高カリウム(80 mM KCl)による収縮に対する影響も検討する。 5.以上の検討で得られた結果を取りまとめ、学会や専門誌で成果を発表する。
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