研究課題/領域番号 |
20K11520
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
田中 秀和 立命館大学, 生命科学部, 教授 (70273638)
|
研究分担者 |
山形 要人 公益財団法人東京都医学総合研究所, こどもの脳プロジェクト, 研究員 (20263262)
澤野 俊憲 立命館大学, 生命科学部, 助教 (60805597)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 脳梗塞 / リハビリテーション / 日常生活動作(ADL) / 神経回路リモデリング / シナプス可塑性 / プロトカドヘリン / 樹状突起スパイン / 接着分子 |
研究実績の概要 |
脳梗塞後、リハビリテーションにより、残存した脳組織が再編(リモデリング)され、欠損した神経回路機能を代償する。このとき、個体発生における神経回路形成過程の一部が再活性化すると考えられる。神経細胞が突起を伸ばし、結合すべき相手とシナプス結合し、神経回路を形成するためには、突起同士を特異的に結びつける接着分子が必要である。特に神経活動で誘導されるプロトカドヘリン・アルカドリンは重要である。本研究は、脳梗塞後のリハビリテーションでアルカドリンが神経回路リモデリングに果たす役割を明らかにすることを目指している。2020年度に引き続き、2021年度は以下の検討を進めた。 脳梗塞範囲に個体間のばらつきが少ない中大脳動脈閉塞モデルを作製できるC.B-17マウスを用い、脳梗塞発症後14日間の走行輪による自発運動が、治療的介入として強度、期間ともに適切であることを確認した。 脳梗塞発症後、自発運動の有無によるマウス運動能力の変化を、過年度に確立したワイヤハング試験、格子歩行試験に加えて、クライムダウン試験を加えた。 Western blotおよびIn situ hybridizationによる過年度の解析で、樹状突起スパイン密度制御性接着分子アルカドリンは、脳梗塞に陥った大脳皮質同側近傍の海馬歯状回などで劇的に誘導された。2021年度は、c-fosが誘導されることも確認し、アルカドリン誘導には虚血後脳における神経細胞の過剰興奮が関与することが示唆された。 過年度確立した、特定の神経細胞に色素Lucifer Yellowを注入して樹状突起スパインを可視化する系を用い、2021年度は脳梗塞および自発運動介入による神経回路の形態変化を測定した。 アルカドリンの関与を検討することを目指して、Arcadlin遺伝子欠損マウスをC57BL/6系統から、C.B-17系統に戻し交配を行い、8世代に到達した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは概ね計画通りに進んでいる。本研究計画が開始される以前から、実験系やモデルの検討を行ってきた蓄積があるので、コロナ禍の困難な状況ではあるが、ひとまず対応することができている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに脳梗塞への治療的介入として脳梗塞発症後14日間の走行輪による自発運動が、介入強度、期間ともに適切であることをワイヤハング試験、格子歩行試験、クライムダウン試験で確認した。今年度は、運動が治療効果をもたらす生物学的メカニズムを探索するために、脳梗塞後の運動介入の有無によって、新たに病巣側脳内で増える細胞種を組織学的に同定することを目指す。その後、技術的に可能であれば、その細胞をそれぞれの条件のモデルマウス脳から単離し、マイクロアレイ等の手段により、病態改善に関与する可能性のある分子の同定も目指す。 一方これまでの解析で、脳梗塞および自発運動介入による病巣周囲神経細胞樹状突起スパイン密度の変化を検出した。さらに樹状突起スパイン密度制御性接着分子アルカドリンが、脳梗塞に陥った大脳皮質同側近傍の海馬歯状回などで劇的に誘導されることも示した。本年度は、このスパイン密度変化にアルカドリンの関与を検討することを目指して、Arcadlin遺伝子欠損C.B-17系統マウスでの脳梗塞後運動介入実験を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
全体として、概ね予定通りの進捗は得られたが、コロナ禍による制約が、研究室および動物実験施設の使用制限にとどまらず、実験材料の供給にまで及んでいたため、実験データの細部の詰めがなされていない。また、学会における成果発表もウェブ開催に終始したため、旅費の執行も一部滞っている。それらの積み残し分を、次年度に合わせて行い、学会発表も精力的に行う予定である。
|