老齢個体の臓器ではミトコンドリア機能異常が観察され、老化との関連性が報告されている。しかしながら、加齢に伴うミトコンドリア機能異常の詳細な分子機序や臓器老化との関連性は十分に理解されていない。これらを解明するには、臓器特異的なミトコンドリアタンパク質の変化を捉えることが重要である。本研究では、加齢に伴い臓器特異的に発現変化を示すミトコンドリアタンパク質を同定することを目的とした。細胞老化と関連するミトコンドリアタンパク質の同定に先んじて、細胞老化過程のミトコンドリアの形態・機能的変化を解析した。その結果、細胞の増殖速度が低下する移行期では、ミトコンドリアの形態変化は観察されるが、呼吸鎖障害や活性酸素種の増大は検出されなかった。一方、細胞老化後には、ミトコンドリアの異常形態に加え、呼吸鎖障害や活性酸素種の増加が認められた。したがって、呼吸鎖障害は細胞老化の早期プロセスに関与しない可能性が示唆された。次に、オミクス解析データから、細胞老化に伴い発現変化を示すミトコンドリアタンパク質を選抜し、若齢と老齢マウスの各種臓器においてそれらの発現変化を検証した。その結果、ミトコンドリアタンパク質Xは加齢に伴い腎臓特異的に発現変化を示すことが明らかとなった。さらに、ミトコンドリアタンパク質Xの遺伝子発現レベルは、老化マーカーであるp21の遺伝子発現レベルと強い負の相関関係を示した。従って、臓器老化に関係するp21陽性老化細胞とミトコンドリアタンパク質Xの関連性が推察された。今後、ミトコンドリアタンパク質Xの機能・役割、細胞老化との因果関係を明らかにすることで、臓器老化のメカニズムの一端を解明できるものと考えられる。
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