研究課題/領域番号 |
20K11526
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
土持 裕胤 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (60379948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 耐糖能異常 / 生活習慣病 / エピゲノム修飾 / 運動療法 / 脂質異常症 |
研究実績の概要 |
本研究は運動習慣や食習慣といった環境要因によるエピゲノム修飾と生活習慣病発症リスクに焦点を当て、幼少期からの栄養状態の違い、または母体内環境(低または過剰栄養)に起因する胎児期・新生児期のエピゲノム修飾がその後の加齢過程におけるメタボリックシンドローム発症リスクに及ぼす影響を明らかにするものである。さらに、運動や食習慣の改善が生活習慣病発症リスクを下げうるかどうかについて、個体レベルから臓器、細胞、プロテオーム、エピゲノム、の各レベルに渡って解明を目指す。 エピゲノム修飾解析を行うために適した動物モデルを作成するために、二年目も引き続き、環境要因(主に食餌)の影響で生活習慣病を発症するモデル動物の開発を試みた。その結果、雄性マウスにおいて、若齢期から高カロリー(約425kcal/100g)餌であるクイックファット(日本クレア)を給餌することにより、脂質異常症および耐糖能異常を呈するマウスの作成に成功した。このマウスはOGTTにより500mg/dL以上の高血糖およびHbA1c 6以上の高値を示した。この耐糖能異常モデルマウスの遺伝子発現解析において、心不全で再発現する心臓特異的胎児型遺伝子の再発現が認められたものの、P-V loop解析による心機能の低下は認められなかった。同系統の雌性マウスにおいては、OGTTによる耐糖能異常を示さなかった。並行して、本耐糖能異常モデル雄性マウスに対し、食餌内容の改善(高カロリー餌から通常餌への変更)、および、食餌内容の改善プラス習慣的運動(ランニングホイールによる自発的有酸素運動)の影響を調べる実験を開始した。 新たに、妊娠高血圧症候群モデルラットの開発を試み、妊娠高血圧症候群発症の有無が加齢に伴う循環器疾患発症リスクに影響し得るかを調べた。産後ラット脳血管において、ヒトで妊娠高血圧症候群に関連するとされる遺伝子発現変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の結果を踏まえ、主に環境要因によって中等症以上の生活習慣病を発症するモデル動物の作成を優先すべきと考えた。結果、耐糖能異常に関しては先行研究を上回る重症度のモデルマウスを作成することが出来た。このマウスに対し、血管内皮障害モデルを併発させることで、高血圧・脂質異常症・耐糖能異常の合併症モデル作成を試みた。ところが、血管内皮障害モデル作成方法として先行研究を参考に一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害剤であるL-NAMEを長期間飲水投与したところ、先行研究とは異なり、血圧の上昇や心肥大が起こらなかった。投与濃度や期間を変えてみたが結果は変わらず、先行研究の妥当性を含め、その原因を究明中である。 エピゲノム修飾解析に関して、安価で簡易的な解析では病態解明につながるような重要な結果を得られる可能性はかなり低いと考えられるため、ATAC(Assay for Transposase-Accessible Chromatin)-seqのような詳細な解析を行うべきだと考えている。しかしながら詳細な解析ほど費用が掛かるため、エピゲノム修飾解析に有用であろう、明瞭な病態モデル動物の開発を優先しており、そのために進捗状況は遅れ気味である。しかしながら、昨年度の改善方策として雌性動物の解析を後回しにするとしていたが、雌性マウスの卵巣摘出群作成を行うことが出来たため、この点に関しては更なる遅れを回避することが出来た。 妊娠高血圧症候群発症の有無が加齢に伴う循環器疾患発症リスクに影響し得るかを調べるためにラットを用いてモデル動物の開発を進めているが、現時点では妊娠に伴う血圧の増加はマイルドであり、重症高血圧症の発症には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度中に脂質異常症および耐糖能異常の合併症モデルマウスを作成できたため、今後は主にこのモデルを用いて、不適切な食習慣が循環器系のエピゲノム修飾異常を引き起こす可能性について研究を進めていく。生活習慣病としての循環器疾患として高血圧症は外せない疾患であると考えており、高血圧症を併発する重症生活習慣病モデルの開発を優先する計画である。具体的には、NOS阻害剤L-NAME慢性投与に代わる血管内皮障害モデル、および腎障害誘発による腎性高血圧症モデルマウス作成を目指す。また、生活習慣病は加齢とともに発症するため、加齢の影響を加味した実験群を設定する。 最終年度である3年目は、雄性マウスおよび卵巣摘出雌性マウスの高カロリー餌誘発生活習慣病モデルに対して、運動療法がどのような予防・改善効果をもたらすかについて、主にATAC-seq解析を手始めにエピゲノム修飾異常およびmRNA発現変化への影響について、解析を進める。具体的には、循環器系機能、特に心機能低下やリモデリングとエピゲノム修飾異常の関係を、明らかにしていく。最終的に、高齢者に見られる拡張不全による心不全に対して、生活習慣病由来エピゲノム修飾異常がどのように関与し得るのかについての知見を得る。妊娠高血圧症候群モデルラットについては、生活習慣病や加齢の影響を加味したモデルにすることで、重症モデルの作成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に高額なデータ解析を行うため、当該年度の経費を抑え、次年度へと繰り越した。 これまでの2年間、学会出張をすべて自粛せざるを得なかったことも、予算繰り越しの原因である。 繰り越した額と合わせ、ATAC-seq等のDNA修飾解析を行う計画である。
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