本研究課題では、メタボリックシンドローム発症初期の、まだ心臓血管障害が顕著でない時期に、遺伝子、タンパク質発現やオープンクロマチン領域がどのように変化し始め、それらのうち何が心臓血管障害に結び付くのかについて実験を行った。また、これらの初期異常に対して、日常的な運動が予防・改善効果を示すかどうかについても実験を行った。 メタボリックシンドロームを発症させるために、マウスに幼少期から高脂肪餌を8週間以上与えた結果、雄性C57BL/6JではOGTTによる耐糖能異常は軽度であったが、雄性B6D2F1マウスにおいては肥満型2型糖尿病自然発症モデルマウスであるdb/dbマウスに匹敵する耐糖能異常を示した。この結果は、遺伝要因のみならず、環境要因(高脂肪餌)による幼少期のエピゲノム変化が、特に雄性において耐糖能異常に大きな影響を及ぼすことを示唆するものである。 長期の高脂肪餌負荷は、生体マウスの心機能を有意に低下させることは無かったが、収縮能の軽度亢進と収縮期血圧の上昇が認められ、これらは末梢血管抵抗の増加に対する適応応答を示唆していると思われる。 成体B6D2F1マウスに長期の高脂肪餌負荷後に、標準餌給餌+回転ケージによる自発運動を行わせた群は、ATAC-Seqによるオープンクロマチン領域解析において標準餌給餌群や自発運動群に比べて例えば脂質・糖代謝調節に関わるPyruvate dehydrogenase kinase isoform 4(PDK4)等に特徴的な応答が見られた。 メタボリックシンドロームおよび生活習慣病の発症予防および初期治療において、食習慣または運動習慣改善単独よりも、両者を組み合わせることの利点を遺伝子発現制御の面から解析する手掛かりを得た。現在、これらマウスの遺伝子、タンパク質の網羅的発現解析およびATAC-Seq解析のデータ解析を進めている。
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