研究課題
消化管管腔内には腸内細菌や食物由来の多くの化学物質が存在する。消化管には管腔内に存在する化学物質を受容するための化学物質受容機構が存在する。最近、この化学物質受容機構の破綻が、肥満や糖尿病などの代謝性疾患、心臓病、あるいは高次脳機能に影響することが明らかになってきた。この化学物質受容機構は、まず腸のセンサー細胞にある化学物質受容体や輸送体により感知され、その情報が内分泌系、免疫系および神経系を介して脳へ送られることで、初めて機能する。本研究では、消化管粘膜上皮での化学物質受容機構を明らかにし、肥満等代謝性疾患や高次脳機能障害の予防法を確立するための基礎的な知見を提供することを目的とし以下の実験計画を策定した。本年度は、昨年度に引き続き腸内細菌により化学修飾される二次胆汁酸の局所への生理作用及びその情報伝達に関与する反射機構について解析を行った。その結果、二次胆汁酸は、神経刺激による誘発される水分泌をL細胞に発現している胆汁酸受容体を活性化させPYYを放出させることで、粘膜下神経のVIP分泌神経に発現しているY2受容体を介して抑制していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
肥満等代謝性疾患などの主要な原因の一つとして、消化管での化学受容機構の破綻があるが、本年度は、化学受容細胞からの情報伝達についてUssing chamberを用いて検討した。その結果、腸内細菌の修飾を受けて産生される二次胆汁酸は、胆汁酸受容体であるTGR5を活性化させ腸管神経系からPYYを放出し、VIP神経に情報を伝達していることを明らかにした。しかしながら、さらに腸内分泌細胞から分泌される情報伝達物質としての脳腸ペプチドの分泌動態についてLC-MS/MSを用いて網羅的解析が必要である。
現在までの研究により、消化管管腔にある化学物質の受容機構及びそれに引き続く腸管神経系への伝達経路を明らかにしたが、さらに今後は空間的基盤をなす受容体の発現部位や腸管神経系との機能的関連などをより詳細に明らかにする必要がある。また、腸管神経系から中枢への神経系を介した化学物質情報伝達経路を明らかにすることで伝達障害による肥満等代謝性疾患の発症機構を明らかにする必要がある。さらに、高脂肪食給餌ラットなどを用い、肥満等代謝障害によりどのように化学物質受容機構が破綻を起こすかを明らかにし、代謝性疾患予防のための基礎的知見を提出する。
さらに、腸内分泌細胞から放出される脳腸ペプチドの放出動態についての研究が必要となり、そのための試薬購入費として次年度に繰り越した。
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Biomedical Research
巻: 44 ページ: 17~29
10.2220/biomedres.44.17.
巻: 43 ページ: 223~239
10.2220/biomedres.43.223