研究課題/領域番号 |
20K11548
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
石塚 俊晶 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 薬理学, 教授 (30399117)
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研究分担者 |
佐藤 泰司 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 生化学, 教授 (10505267)
野村 さやか 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 薬理学, 助教 (20791651)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳内炎症 / 神経新生障害 / 高脂肪食 / TNF / LPS |
研究実績の概要 |
アルツハイマー型認知症(AD)の病態に脳内炎症と神経新生障害の関与が示唆されている。一方、メタボリックシンドロームや腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)がADの発症に関連することが報告されている。また、高脂肪食はディスバイオシスによるLPSの産生亢進と脂肪組織の炎症増大によるTNF産生亢進を誘導していることが報告されている。我々は、最近、TNFおよびLPSの刺激がミクログリアや神経前駆細胞のインフラマソーム活性化を促進し、神経前駆細胞の神経細胞への分化を抑制することを見出した。そこで、今回、我々は、高脂肪食摂取で誘導される脂肪組織の炎症やディスバイオシスが脳内炎症や神経新生障害を惹起し認知機能障害に至る機序を解明することを目指している。 まず、我々は、健常マウスであるC57BL/6マウスを通常飼料(脂質の総カロリー比11%)あるいは高脂肪飼料(脂質の総カロリー比60%)で16週間飼育後、LPSを5日間連日腹腔内投与した。マウス血漿中のTNF値は、高脂肪飼料群で平均で約5倍高くなる傾向がみられたが、LPSの投与による影響はみられなかった。海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞数は、高脂肪飼料にLPSを投与した群で通常飼料群や高脂肪飼料のみの群より少ない傾向がみられた。また、海馬歯状回や前頭前野におけるIba-1, IL-1β double positive細胞数は、高脂肪飼料にLPSを投与した群で他の群より多い傾向がみられた。さらに、認知機能試験としてモーリス水迷路試験を5日間連続で実施したが、ターゲットへの到達時間はいずれの群でも有意な変化はみられず、ターゲット領域の滞在時間も各群での差はみられなかった。今回の結果から、健常マウスへの高脂肪飼料およびLPSの投与は、脳内炎症や神経新生障害を誘導するものの、その程度は軽いため、直接、認知機能低下につながらないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言により、全省的なテレワークの推進が求められた。本校動物実験施設においても、例外なく施設所属の動物飼育員の在宅勤務の実施が求められたことにより、飼育動物数の制限とそれに伴う動物実験計画の大幅な縮小を余儀なくされた。このため、当初の計画では、初年度に健常マウスに加えて、ADモデルマウスに対しても高脂肪飼料による飼育とLPS投与を実施する計画であったが、未実施となった。現在、ADモデルマウスへの高脂肪飼料による飼育を実施中であり、飼育期間終了後にLPSを投与し、血漿や脂肪組織および脳組織の解析ならびに認知機能試験を実施する予定である。また、摘出した盲腸便を用いた次世代シーケンサーによる腸内細菌叢のメタゲノム解析も、現在、実験系の構築を進めており、確立し次第、順次、解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が断続的に発令され、今後も動物飼育員の在宅勤務実施が予想される状況である。それに伴い、動物実験施設での飼育動物数の制限は継続される可能性が高い。このため、講座独自の動物実験室等を活用し、今後の動物実験計画の着実な推進に努めたい。特に、ADモデルマウスへの高脂肪飼料による飼育とLPS投与で脂肪組織の炎症、脳内炎症、神経新生および認知機能に有意な影響がみられるかを急ぎ検討したい。また、次世代シーケンサーによる腸内細菌叢のメタゲノム解析も実験系を極力早期に確立し着実な解析に努めたい。さらに、今年度の実験に必要なプロバイオティクスや抗サイトカイン薬の入手に着手しており、それらの投与による治療効果の研究に関しても実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言により、全省的なテレワークの推進が求められた。本校動物実験施設においても、例外なく施設所属の動物飼育員の在宅勤務が実施されたことにより、飼育動物数の制限とそれに伴う動物実験計画の大幅な縮小を余儀なくされた。このため、当初の計画では、初年度に健常マウスに加えて、ADモデルマウスに対しても高脂肪飼料による飼育とLPS投与を実施する計画であったが、ADモデルマウスへの実験が未実施となったため。また、摘出した盲腸便を用いた次世代シーケンサーによる腸内細菌叢のメタゲノム解析も、実験系の構築が遅れたため。 (使用計画)現在、ADモデルマウスへの高脂肪飼料による飼育を実施中であり、飼育期間終了後にLPSを投与し、血漿や脂肪組織、脳組織の解析、認知機能試験を実施する予定である。また、腸内細菌叢のメタゲノム解析も、早期に実験系を確立し、着実な解析に努める。さらに、今年度実施予定のプロバイオティクスや抗サイトカイン薬投与による治療効果の研究へも着手していく予定である。
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