研究課題/領域番号 |
20K11555
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
原 康洋 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員(常勤) (70568617)
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研究分担者 |
平野 賢一 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (30332737)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TGCV / ATGL / エピゲノム |
研究実績の概要 |
中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)は、心筋と冠動脈へトリグリセリドが蓄積する難病であり、adipose triglyceride lipase(ATGL)活性の低下が主要な原因と考えられている。本研究は、その発症機構を明らかにするためにATGL遺伝子に欠損を持たない特発性TGCVにおいてATGL遺伝子が受けるエピジェネティックな抑制を調べることを目的としていたが、特発性TGCVではATGLタンパク質量に変化がなく活性レベルで負の調節を受けていることが判明し、当初の方針を変更することとなった。しかしながら特発性TGCVの発症に脂質代謝遺伝子のエピジェネティックな変化が重要な役割を果たしているとの推測に変わりはない。 そこで特発性TGCVの発症に関わる新たなエピジェネティック制御研究のための検討を行った。 (1)ラット心筋培養細胞H9C2を用い、①CRISPR-Cas9によるATGL遺伝子のノックダウンを行い、複数の脂肪滴高蓄積細胞の存在を確認した。②心臓検査に用いられているヨウ素標識長鎖脂肪酸アナログであるI123-BMIPPを蛍光標識に改変した蛍光BMPPを用い、蛍光BMPPが細胞内に取り込まれ、その後経時的に排出が起こることを示した。 (2)脂肪酸によるエピジェネティックな変化を調べる目的でHeLa細胞を選択し、①オレイン酸を加えての培養による量依存的な脂肪滴の蓄積を確認した後、それらにATGLを高発現させたが全体としての脂肪蓄積の変化は見られなかった。現在、蛍光タンパク質融合ATGLを作製しATGL発現量と脂肪蓄積の関係を局在を含めて詳細に見る系を構築している。②HeLa細胞においても蛍光BMPPが細胞内に取り込まれ、その後経時的に排出がおこることを確認し、さらに脂肪酸受容体CD36の阻害剤によりその取り込みが阻害されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
心筋と冠動脈へトリグリセリドが蓄積する中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)のうち、リパーゼであるATGLに遺伝子欠損がない特発性TGCVにおいてはこれまでATGL発現が著減することが発症の主要な原因と考えられていた。そこで本研究課題の核心となる目的として「特発性TGCVにおけるATGL発現の著減が、ATGL遺伝子領域のエピゲノム変化を介した抑制によるものか否か」を設定した。 しかしながら、その後の精密な検討により特発性TGCVにおけるATGL発現量は健常人と変化がなく、むしろ酵素活性レベルで強い抑制を受けていることが判明した。 当初予測していなかった本事象により、特発性TGCV発症機構におけるエピゲノム変化の研究に関して新たな課題を設定することが必要となった。そのため令和3年度は新たな研究課題設定のための検討を中心に行なったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
TGCVの顕著な病巣となる心筋の培養細胞であるラットH9C2、あるいはヒト由来でありすでに脂肪酸負荷による脂肪滴蓄積実験に広く用いられているHeLa細胞を対象とし、特発性TGCVの多くが糖尿病に合併して見られることを考慮し、これら細胞に高脂肪酸あるいは高グルコースによる負荷をかけ、肥大、トリグリセリド蓄積、インスリン抵抗性といった障害を誘導し、脂質代謝関連遺伝子のエピゲノム変化を調べTGCV発症機構解明に結び付けるという新規な研究課題を推進する。 現在までにHeLa細胞、H9C2細胞を用いて様々な条件での培養による細胞障害誘導の検討を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予測していなかった新事実判明により、特発性TGCV発症機構におけるエピゲノム変化の研究に関して新たな課題を設定することが必要となった。それにより令和3年度は新たな研究課題設定のための予備検討を中心に行ったことによる。 令和4年度は細胞を用いた研究遂行のための細胞培養用消耗品、エピゲノム解析に用いるクロマチン免疫沈降実験に必要な試薬の購入を予定している。
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