研究課題
N-アシルエタノールアミンは種々の長鎖脂肪酸とエタノールアミンがアミド結合を介して縮合した構造を有する脂質メディエーターである。本脂質分子は食欲抑制・脂肪分解などの作用を示し、生活習慣病の主要な原因である肥満を抑制的に制御すると考えられている。一方、その小腸における生合成・分解機構には不明な点が多い。本研究課題の目的は、小腸において本脂質を生合成・分解する責任酵素を同定することである。我々は前年度に、セラミドを酸性領域で分解するリソソーム酵素である酸性セラミダーゼがN-アシルエタノールアミンの分解酵素としても機能することを、精製酵素および培養細胞を用いた実験系により示した。今年度は、本酵素の活性を促進するタンパク質であるサポシンD (SAP-D)のノックアウト(KO)マウスを用いて、動物組織内の酸性セラミダーゼがN-アシルエタノールアミンを加水分解する活性について解析した。SAP-D KOマウスの脳、腎臓、肝臓における本酵素のmRNA発現を定量的PCR法により検討したところ、野生型マウスと比べて有意な差はみられなかった。そこで、これらの臓器のホモジネートを調製して酸性条件におけるセラミド加水分解活性を検討した。その結果、SAP-D KOマウスでは野生型マウスの16-32%に低下していた。この低下は、SAP-Dの酸性セラミダーゼ活性化能を反映していると考えられた。次に、同条件でN-アシルエタノールアミン水解活性を検討したところ、SAP-D KOマウスでは野生型マウスの15-29%と低値であった。以上の結果から、酸性セラミダーゼはセラミドに加えてN-アシルエタノールアミンの加水分解にも関わることが、動物組織を用いた検討により示唆された。よって、小腸においても酸性セラミダーゼの当該活性を考慮する必要があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画のうち、項目「動物個体を用いた個体レベルの解析」において計画を修正し、サポシンDノックアウトマウスを用いることでN-アシルエタノールアミンの加水分解における酸性セラミダーゼの関与を示した。他の項目についても予備検討を進めており、おおむね順調に進展していると言える。
項目「動物細胞株を用いた触媒特性解析」について、研究計画に記載したN-アシルエタノールアミンの生合成酵素GDE7の活性化機構の解析を重点的に実施したい。さらに、他の項目「小腸上皮様細胞株を用いた機能解析」と「動物を用いた個体レベルの解析」についても研究を進展させる予定である。
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