食欲と脂質代謝を制御する脂質分子の生合成・分解機構の解明：肥満改善の創薬に向けて

2022 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20K11571
• 研究機関: 川崎医科大学
• 研究代表者: 坪井 一人 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80346642)
• 研究分担者: 北風 圭介 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80840545) ; 竹之内 康広 川崎医科大学, 医学部, 講師 (30582233)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 脂質メディエーター / セラミダーゼ / N-アシルエタノールアミン / リソソーム酵素 / 加水分解酵素 / 食欲 / 肥満

研究実績の概要

N-アシルエタノールアミンは食欲抑制・脂肪分解などの作用を示す脂質メディエーターであり、生活習慣病の主要な原因である肥満を抑制的に制御すると考えられている。しかしながら、その小腸における代謝機構には不明な点が多い。本研究課題は本反応を担う酵素を同定することを目指している。
N-アシルエタノールアミンの分解に関わるリソソーム酵素として、N-アシルエタノールアミン酸性アミダーゼ(NAAA)がよく知られている。一方、酸性セラミダーゼ(AC)はセラミドを分解するリソソーム酵素として認識されてきたが、本研究ではACに着目した。まず、N-アシルエタノールアミンの生合成酵素を安定発現させたヒト胎児腎臓HEK293細胞にACを発現させたところ、N-アシルエタノールアミンの細胞内レベルは減少した。逆に、ヒト前立腺LNCaP細胞の内在性ACをsiRNA法によりノックダウンしたところ、N-アシルエタノールアミンの細胞内レベルは上昇した。さらに、AC活性を促進するサポシンD蛋白質の欠損マウスについて、脳、腎臓、肝臓のホモジネートのN-アシルエタノールアミン水解活性を検討したところ、野生型マウスの15-29％と低値であった。以上の結果から、ACがN-アシルエタノールアミンの加水分解に関わることが、細胞および動物組織レベルの解析により示唆され、小腸においても当該活性を考慮する必要があると考えられた。
そこで次に、ACの機能解析に有用な蛍光基質としてLAMCAの評価を行った。ACとNAAAが混在する生体試料ではLAMCAとNAAAの反応性が問題となることが予想される。そこで、ヒト精製NAAAおよびACを調製してLAMCA加水分解活性を測定したところ、ACだけでなくNAAAにも活性が認められた。従って、LAMCAを用いて生体試料のAC活性を測定する際には、特異的阻害薬の併用などの注意が必要であると考えられる。

研究成果

• [国際共同研究] Inst. for Adv. Chem. of Catalonia(スペイン)
  • 国名: スペイン
  • 外国機関名: Inst. for Adv. Chem. of Catalonia
• [国際共同研究] Univ. of Virginia(米国)
  • 国名: 米国
  • 外国機関名: Univ. of Virginia
• [国際共同研究] Univ. Toulouse III-Paul Sabatier(フランス)
  • 国名: フランス
  • 外国機関名: Univ. Toulouse III-Paul Sabatier
• [雑誌論文] 蛍光基質を用いた簡便なグリセロホスホジエステラーゼGDE4およびGDE7の活性測定法 (2022)
  • 著者名/発表者名: 北風 圭介, 坪井 一人
  • 雑誌名: 生化学 巻: 94 ページ: 923～927
  • DOI: 10.14952/SEIKAGAKU.2022.940923
  • 査読あり
• [学会発表] 新規抗がん薬のスクリーニングに有用な酸性セラミダーゼ活性測定法 (2023)
  • 著者名/発表者名: 坪井一人
  • 学会等名: KMSメディカル・アーク2023
  • 招待講演
• [学会発表] 線維化肺における脂質メディエーター分解酵素の発現低下メカニズム (2023)
  • 著者名/発表者名: 岡本安雄, 竹之内康広, 北風圭介, 松井玲奈, 石丸浩靖, 杉本理栄, 坪井一人
  • 学会等名: 第100回日本生理学会大会
• [学会発表] グリセロホスホジエステラーゼ7は小胞体内腔において環状ホスファチジン酸を産生する (2022)
  • 著者名/発表者名: 北風圭介, 坪井一人, Hanif Ali, 木本来希, 竹之内康広, 石丸浩靖, 山下純, 上田夏生, 田中保, 岡本安雄
  • 学会等名: 第63回日本生化学会中国・四国支部例会
• [学会発表] 肺胞上皮細胞特異的p16ノックアウトマウスを用いた老化肺胞上皮細胞の肺線維化への影響 (2022)
  • 著者名/発表者名: 竹之内康広, 北風圭介, 杉本理栄, 石丸浩靖, 坪井一人, 岡本安雄
  • 学会等名: 第63回日本生化学会中国・四国支部例会
• [学会発表] 肺線維症におけるリゾリン脂質メディエーター分解酵素の役割 (2022)
  • 著者名/発表者名: 松井玲奈, 竹之内康広, 北風圭介, 杉本理栄, 石丸浩靖, 坪井一人, 岡本安雄
  • 学会等名: 第63回日本生化学会中国・四国支部例会
• [学会発表] 発汗抑制によるマウス足底部の角層水分量低下がアレルギー反応に与える影響 (2022)
  • 著者名/発表者名: 石丸浩靖, 北風圭介, 竹之内康広, 坪井一人, 岡本安雄, 青山裕美
  • 学会等名: 第63回日本生化学会中国・四国支部例会
• [学会発表] 蛍光基質を用いたグリセロホスホジエステラーゼGDE4およびGDE7の活性測定法の確立 (2022)
  • 著者名/発表者名: 坪井一人, 北風圭介, 津田真帆, 竹之内康広, 石丸浩靖, 岡本安雄
  • 学会等名: 第64回日本脂質生化学会
• [学会発表] 肺線維症における脂質メディエーター分解酵素の役割 (2022)
  • 著者名/発表者名: 岡本安雄, 竹之内康広, 北風圭介, 松井玲奈,石丸浩靖, 坪井一人
  • 学会等名: 第141回日本薬理学会近畿部会
• [学会発表] Acid ceramidase as a third N-acylethanolamine hydrolase in cells and tissues (2022)
  • 著者名/発表者名: Kazuhito Tsuboi, Tatsuya Tai, Ryouhei Yamashita, Hanif Ali, Takashi Watanabe, Toru Uyama, Yoko Okamoto, Keisuke Kitakaze, Yasuhiro Takenouchi, Iffat Ara Sonia Rahman, Hitoshi Houchi, Tamotsu Tanaka, Akira Tokumura, Junko Matsuda, Yasuo Okamoto, Natsuo Ueda
  • 学会等名: 32nd Annual International Cannabinoid Research Society Symposium on the Cannabinoids
  • 国際学会
• [学会発表] A novel fluorogenic probe to monitor the activity of acid ceramidase, fatty acid amide hydrolase and N-acylethanolamine acid amidase (2022)
  • 著者名/発表者名: M. Casasampere, J. L. Abad, J. Ung, C. Dufau, K. Tsuboi, A. Delgado, J. Casas, G. Fabrias
  • 学会等名: 14th Sphingolipid Club Meeting
  • 国際学会
• [学会発表] 脂質メディエーターN-アシルエタノールアミンの分解における酸性セラミダーゼの関与 (2022)
  • 著者名/発表者名: 上田夏生、坪井一人、田井達也、松田純子、田中 保
  • 学会等名: 第373回脂溶性ビタミン総合研究委員会
• [学会発表] Pathophysiological analysis of Saposin D-deficient Twitcher mice (2022)
  • 著者名/発表者名: Takashi Watanabe, Shinji Go, Yuta Ishizuka, Kazuhito Tsuboi, Ayaka Ono, Junko Matsuda
  • 学会等名: 第63回日本先天代謝異常学会 学術集会
• [学会発表] グリセロホスホジエステラーゼ7は小胞体内腔における環状ホスファチジン酸の産生酵素である (2022)
  • 著者名/発表者名: 北風圭介, 坪井一人, Hanif Ali, 木本来希, 竹之内康広, 石丸浩靖, 山下純, 上田夏生, 田中保, 岡本安雄
  • 学会等名: 第95回日本生化学会大会
• [学会発表] 肺線維症における老化肺胞上皮細胞の役割 (2022)
  • 著者名/発表者名: 竹之内康広, 北風圭介, 杉本理栄, 石丸浩靖, 坪井一人, 岡本安雄
  • 学会等名: 第95回日本生化学会大会
• [学会発表] グリセロホスホジエステラーゼ7による環状リン脂質メディエーターの細胞内産生 (2022)
  • 著者名/発表者名: 北風圭介, Hanif Ali, 木本来希, 竹之内康広, 石丸浩靖, 山下純, 上田夏生, 田中保, 岡本安雄, 坪井一人
  • 学会等名: 第96回日本薬理学会年会
• [学会発表] p16コンディショナルノックアウトマウスを用いた肺線維化における老化肺胞上皮細胞の役割の解析 (2022)
  • 著者名/発表者名: 竹之内康広, 北風圭介, 杉本理栄, 石丸浩靖, 坪井一人, 岡本安雄
  • 学会等名: 第96回日本薬理学会年会
• [図書] Assay of NAAA activity (pages 261-274), Methods Mol. Biol., Vol. 2576, Endocannabinoid Signaling: Methods and Protocols 2nd Edition (2022)
  • 著者名/発表者名: Tsuboi K, Ueda N
  • 総ページ数: 509
  • 出版者: Humana Press
  • ISBN: 978-1-0716-2727-3
• [図書] Involvement of the γ isoform of cPLA2 in the biosynthesis of bioactive N-acylethanolamines (pages 187-200), A Themed Issue in Honor of Professor Raphael Mechoulam: The Father of Cannabinoid and Endocannabinoid Research (2022)
  • 著者名/発表者名: Guo Y, Uyama T, Rahman SMK, Sikder MM, Hussain Z, Tsuboi K, Miyake M, Ueda N
  • 総ページ数: 236
  • 出版者: MDPI
  • ISBN: 978-3-0365-3006-2
• [備考] 川崎医科大学薬理学教室
  • URL: https://kms-pharmacol.wixsite.com/website