研究課題
申請者はこれまでの研究から、「動物性脂肪の過剰摂取が腸管内に分泌される主要な抗体であるIgAと腸内細菌の結合を弱め、この結合弱化がインスリン抵抗性の一因となっている可能性」を示した。この結果に着想を得て本研究では2つの項目を検証することを目的としている:(1)IgAと腸内細菌の結合を促進する難消化性オリゴ糖の摂取がインスリン抵抗性の発現抑制に有効であるかを検証すること、(2)IgAと腸内細菌の結合を維持する食事脂肪の探索。令和2年度は(1)を検証するために、動物性脂肪の過剰摂取下で難消化性オリゴ糖をマウスに投与し、IgAと腸内細菌の結合およびインスリン抵抗性を評価した。マウスに高動物性脂肪食を12週間給餌し、給餌期間中難消化性オリゴ糖を飲水投与した。試験開始12週目に糞便を回収し、経口糖負荷試験を実施した。また、インスリン抵抗性の簡易的指標であるHOMA-IRを評価した。糞便細菌を回収し、細菌に結合しているIgA量をウェスタンブロット法により評価した。細菌に結合するIgA量は対照群(高動物性脂肪食を給餌)と比較して難消化性オリゴ糖摂取群で顕著に増加した。経口糖負荷試験の結果、血糖上昇曲線下面積は難消化性オリゴ糖摂取群で対照群と比較して低下する傾向がみられた。また、HOMA-IRは難消化性オリゴ糖摂取群で対照群と比較して有意に低下した。これらの結果から、本試験で供試した難消化性オリゴ糖は動物性脂肪の過剰摂取下においてもIgAの腸内細菌への結合を促進する可能性が示された。また、難消化性オリゴ糖の摂取によるIgAの腸内細菌への結合促進作用が耐糖能やインスリン抵抗性の改善に関与している可能性が考えられる。目的(2)を検証するために様々な食事脂肪を含む高脂肪食をマウスに長期間給餌し、IgAと腸内細菌の結合およびインスリン抵抗性を評価する試験を上記の試験と並行して実施中である。
2: おおむね順調に進展している
感染症対策による学生の入室制限など多少の制約はあったものの、予定通りの動物実験を令和2年度に実施しており、本申請課題は概ね順調に進行している。
IgA欠損マウスを繁殖飼育し、供試する。IgA欠損マウスを用いて難消化性オリゴ糖の摂取によるIgAの腸内細菌への結合促進作用が耐糖能やインスリン抵抗性の改善作用と関係しているかについて検証していく。また、IgAと腸内細菌の結合を維持する食事脂肪を探索するための研究については令和3年度も引き続き継続していく。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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