メタボリックシンドローム(MetS)の発症抑制または改善時の「腸管」の寄与度は十分に理解されていない。本研究では、生体内での臓器連環を介して抗MetS作用を発現する食品因子のメカニズム解析において、腸管の寄与を調べることを目的としている。 2021年度において、抗MetS作用を発揮する食品因子の中で、両親媒性分子であり門脈系とリンパ系の両方で輸送されうるグリセロリン脂質に注目した。グリセロリン脂質クラスの1つであるホスファチジルコリン(PC)と、PCの腸管消化産物であるグリセロホスホコリン(GPC)、塩化コリン(CC)の3種類のコリン化合物を等モルでSD系ラットに摂取させる実験を行った。病態発症前、すなわち未病状態での代謝変動を見出すことを目指し、GC-MSによる親水性低分子化合物のノンターゲット分析、LC-MS/MSでのコリン代謝物分析、腸内細菌叢解析を展開した。多数の化合物の血漿濃度に群間変動が認められ、その中の1つは動脈硬化症・糖尿病のリスクファクターとして知られるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)であった。血漿TMAO濃度はGPCおよびCC摂取で有意に高値を示し、PC摂取は変化させなかった。血漿TMAO濃度の変動と関連する7つの腸内細菌が見出され、その中でもAnaerotruncusおよびCoprobacterの占有率の影響が強いことが示された。また、PC摂取により有用菌として知られるAkkermansia muciniphilaの占有率が有意に高値を示し、このことがPC摂取による抗MetS作用に関与することが示唆された。 2021年度には、抗MetS作用を発揮するステロイド化合物を見出しており、その作用メカニズム解明に向けて最終年度は研究を展開していく予定である。
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