研究課題/領域番号 |
20K11584
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
原 宏和 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (30305495)
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研究分担者 |
足立 哲夫 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40137063) [辞退]
神谷 哲朗 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (60453057)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銅 / 神経細胞 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
必須微量元素である銅(Cu)は、神経伝達物質の生合成など、神経細胞の機能維持においても重要な役割を担っている。一方、過剰なCuは神経毒性を示すため、脳内のCu恒常性はCu流入トランスポーター(CTR1)、Cu排出トランスポーター(ATP7A)およびCuシャペロン(Atox1)などにより厳密に制御されている。Cuの恒常性破綻がパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患に発症や病態形成に関与していることが報告されている。我々は、PDモデル作製に使用される神経毒6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)が、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞においてATP7AおよびAtox1のmRNA発現に影響を及ぼさず、それらのタンパク質レベルを特異的に低下させることを見いたした。そこで本研究では、6-OHDAにより引き起こされるATP7AおよびAtox1タンパクの分解機構の機序の解明に取り組んだ。 6-OHDAの毒性発現には酸化ストレスの関与が指摘されている。そこで、6-OHDAによるATP7AおよびAtox1タンパク減少にたいする酸化ストレスの関与を検討した。ATP7AおよびAtox1タンパク量の減少は抗酸化剤N-acetylcysteineにより有意に抑制された。また、6-OHDAのカテコール構造が酸化ストレス誘導性のATP7AおよびAtox1タンパク分解に関与していると考え、ATP7AおよびAtox1タンパクに対するo-、m-、p-ジヒドロキシベンゼン(それぞれ、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン)の影響を検討したところ、o-およびp-ジヒドロキシベンゼンによりこれらタンパク量は減少した。また、6-OHDAはCu輸送に重要なグルタチオンの細胞内の含量も低下させた。以上より、6-OHDAは、酸化ストレスによるATP7AおよびAtox1タンパクの分解促進に加え、細胞内グルタチオンの減少も細胞のCu恒常性破綻に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、SH-SY5Y細胞においてATP7AおよびAtox1タンパク発現が、6-OHDA以外にカテコールやレゾルシノールによっても減少することを見出した。カテコールによるATP7AやAtox1の減少も抗酸化剤で抑制されたことから、これら化合物から生成する活性酸素種(ROS)あるいはキノン体などがATP7AやAtox1タンパク分解の促進に寄与していると推察される。また、6-OHDAにより細胞内Cu輸送に重要な還元型グルタチオンが減少することを見出した。これらの結果から、酸化ストレスは細胞のCu輸送を阻害することでCu恒常性の破綻を引き起こしていることが明らかとなった。 以上の研究推進状況から、申請者は実験計画がおおむね予定通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、6-OHDAによるATP7AおよびAtox1の分解機構における酸化ストレスの関与について詳細な解析を進める。ATP7AおよびAtox1にはCuが結合するCys-X-X-Cysモチーフが含まれていることから、Cysに着目した。Cysは酸化修飾を受けやすいことから、6-OHDA曝露時に生じるCys酸化修飾がこれらタンパク質の分解を誘発している可能性が考えられる。そこで、6-OHDAやカテコール処理によりATP7AやAtox1の酸化修飾が起きているのかどうか、このモチーフの欠損やCys置換によりATP7AやAtox1タンパクの分解が抑制されるのかどうかを検証する。さらに、Cys残基の酸化修飾によりATP7AおよびAtox1タンパクのリソソーム分解が促進する機序についても検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当研究室では酸化ストレスや生体微量金属の研究で使用する共通の試薬は、研究室所属の研究者と共同購入している。また、前年度に購入した試薬が本年度は、コロナウイル感染拡大で研究活動が一部制限されていたため、全体として例年に比べ試薬の使用量が減り、当初予定していたほど予算を使用しなかった。
使用計画:課題研究はおおむね順調に進んでいることから、次年度の研究計画は予定通り進める。
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