研究実績の概要 |
本研究は、寿命延伸効果が知られている食餌制限の作用機序について、腸管で発現するアミノ酸トランスポーターの役割に注目し解析を進めた。まず、食餌制限下で発現が変動するアミノ酸トランスポーターについて、qRT-PCR法で探索した。その結果、グルタミン酸トランスポーターであるdmGlutとEAAT1の発現が、食餌制限下の腸管において顕著に上昇することを明らかにした。また、それぞれの遺伝子を腸管特異的にノックダウンすると、食餌制限による寿命延伸効果が減弱することを示した。近年、dmGlutが脂質代謝に関わることが報告されたため(Zhao and Karpac, Cell Metabolism, 2021)、次に脂質代謝およびグルタミン代謝に注目し解析を行った。腸管特異的dmGlutノックダウン個体の脂肪体において脂肪滴を染色したところ、食餌制限下で脂肪滴の蓄積異常が起きることを示唆する結果を得た。このことから、グルタミン代謝を介して腸管と脂肪体に相互作用があることが示唆された。また、グルタミン代謝の第一ステップであるグルタミンからグルタミン酸への変換を担うGLSの発現をqRT-PCR法で調べた結果、GLSは食餌制限下で腸管での発現が低下し、脂肪体では発現レベルが上昇することがわかった。 次に、GLS阻害剤であるCB-839をショウジョウバエに給餌し、脂肪体におけるオートファジーへの影響を検討した。その結果、GLS阻害により、アミノ酸飢餓によって誘導されるオートファジーの正常な進行に障害が起こることがわかった。また、同様の結果が、マウス脂肪前駆細胞3T3-L1を用いた実験でも示された。これらのことから、食餌制限下では、腸管と脂肪体の相互作用によりグルタミン代謝が活性化し、GLSを介した脂肪体でのオートファジーの活性化が寿命延伸に寄与していることが示唆された。
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