研究課題
肥満症・代謝性疾患などの生活習慣病に対する治療法として食事療法は最も基本的かつ実践可能なアプローチである。近年、食事療法の多様性の一環として、ケトン食(低炭水化物高脂肪食)や中鎖脂肪酸食などのケトジェニック食が再評価されている。ケトジェニック食は、生体内においてケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)の高産生を誘引する食事組成となっており、ケトン体を介した生理調節機能を背景として栄養生理学的な観点から臨床応用が期待されている。β-ヒドロキシ酪酸(β-HB)、アセト酢酸(AcAc)はエネルギー基質として利用される主要なケトン体であるが、近年、これらが単なる代替エネルギー源としてだけではなく、様々な細胞内プロセスに関係するシグナル分子として作用する可能性が明らかになってきた。その機能を担う生体内の受容体として、GPCRが示唆されている。近年の我々の報告をはじめ、ケトジェニック環境下では、栄養素センサー(GPR41・GPR43)が生体内の栄養環境に応じて、短鎖脂肪酸とケトン体とを適切に認識することで、全身のエネルギー代謝制御に寄与する可能性が指摘されているものの、全容解明には至っていない。そこで本研究ではケトジェニック環境下、GPR41及びGPR43と密接な関連性を有し、メタボリックシグナルの根幹を担うことが示唆されるGPR109Aの機能的意義を明らかにするとともに、「ケトン体-GPCR axis」を基軸とした新規エネルギー代謝制御の分子メカニズムを検証した。今年度は、細胞試験にてβ-HB、AcAcのGPR109Aへの親和性を評価することに加え、ケトジェニック環境下におけるGPR109Aの機能的意義の解明を動物試験にて試みた。
2: おおむね順調に進展している
ケトジェニック環境下、GPR109Aによるケトン体の受諾・応答機構に基づいたエネルギー代謝制御に関する新規の分子機序を解明する一環として、最初にGPR109Aリガンドスクリーニング系の構築を試みた。今年度、HEK293細胞を用いたGPR109A強制発現系の構築に着手し、β-HB、AcAcの結合能の評価を進めている。また、GPR109Aは、ナイアシン(ニコチン酸)受容体として同定されていることから、ポジティブコントロールとして、ナイアシンを用いて細胞内セカンドメッセンジャーを評価指標として検討している。GPR109Aに対するリガンドとしての各種ケトン体の半有効濃度(EC50)に関する詳細な知見は少ないことから、下流シグナルの解析とともに多面的な解析を進めている。次に、ケトジェニック環境下でのGPR109A遺伝子欠損マウスならびに各ケトン体受容体遺伝子欠損マウスの代謝表現型を解析する一環として、ゲノム編集によるGPR109A遺伝子欠損を導入したファウンダーマウスより、現在、ホモ欠損型系統の樹立が完了している。
栄養素センサーとして同定されていた短鎖脂肪酸受容体(GPR41, GPR43)は、生体内のエネルギーバランス・栄養環境に応じて、短鎖脂肪酸とケトン体とを緻密かつ適切に認識することで全身のエネルギー代謝制御に影響を及ぼす可能性が推察される。そこで、作出したGPR109A遺伝子欠損マウスに加えて、各GPCR遺伝子欠損マウスを対象に、個体レベルにてケトジェニック環境下におけるGPCRの機能解析を進める。さらに、GPR109Aの臓器別発現解析に加えて、GPR109Aリガンドスクリーニング系を駆使して、ケトン体-GPCR axisを基軸とした新規のエネルギー代謝制御機構を明らかにする予定である。
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実験医学(増刊号)
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