研究課題/領域番号 |
20K11600
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北野 隆司 (大植隆司) 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (90791583)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ケトン体 / GPCR / 代謝性疾患 |
研究実績の概要 |
肥満症・代謝性疾患などの生活習慣病に対する治療法として食事療法は最も基本的かつ実践可能なアプローチである。近年、食事療法の多様性の一環として、ケトン食(低炭水化物高脂肪食)や中鎖脂肪酸食などのケトジェニック食が再評価されている。ケトジェニック食は、生体内においてケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)の高産生を誘引する食事組成となっており、ケトン体を介した生理調節機能を背景として栄養生理学的な観点から臨床応用が期待されている。β-ヒドロキシ酪酸(β-HB)、アセト酢酸(AcAc)はエネルギー基質として利用される主要なケトン体であるが、近年、これらが単なる代替エネルギー源としてだけではなく、様々な細胞内プロセスに関係するシグナル分子として作用する可能性が明らかになってきた。その機能を担う生体内の受容体として、GPCRが示唆されている。近年の我々の報告をはじめ、ケトジェニック環境下では、栄養素センサー(GPR41・GPR43)が生体内の栄養環境に応じて、短鎖脂肪酸とケトン体とを適切に認識することで、全身のエネルギー代謝制御に寄与する可能性が指摘されているものの、全容解明には至っていない。そこで本研究では、ケトジェニック環境下における「ケトン体-GPCR axis」を基軸とした新規エネルギー代謝制御の分子メカニズムを検証する。今年度は、動物試験にてケトジェニック食(中鎖脂肪酸食) 負荷に伴う各種代謝表現型の変動解析を実施した。その結果、ケトン体のみならず、中鎖脂肪酸もまた中鎖脂肪酸受容体を介して、抗肥満・糖代謝改善作用を発揮することが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケトジェニック環境下、ケトン体の受諾・応答機構に基づく新規のエネルギー代謝制御機構を解明する一環として、今年度は動物試験にてケトジェニック食(中鎖脂肪酸食) 負荷に伴う各種代謝表現型の変動解析を実施した。中鎖脂肪酸食は、飼料中脂肪の構成脂肪酸が中鎖脂肪酸であり、肝臓へと吸収された中鎖脂肪酸は速やかに代謝され、生体内におけるケトン体の高産生に寄与することが知られている。したがって、ケトン体による代謝機能調節機構を明らかにする上で、中鎖脂肪酸食は最適な試験食の一つであると判断し、動物試験に用いた。その結果、ケトン体のみならず、食事由来の中鎖脂肪酸もまた生体内において中鎖脂肪酸受容体を介して、抗肥満・糖代謝改善作用を発揮することが認められた。そこで、ケトン体だけでなく中鎖脂肪酸へも一部解析対象を拡げて検討したところ、それらの作用機序として、中鎖脂肪酸は腸管ホルモンのGLP-1分泌を促進することで、糖代謝改善に寄与することを見出した。従来、中鎖脂肪酸は肝臓での異化代謝の亢進により、生体内での脂肪蓄積が抑制されることから、栄養生理学観点からも有用であることが示唆されていた。今回の検討から、中鎖脂肪酸がケトン体と同様にシグナル分子として作用することで、生理調節作用に関与する可能性が明らかとなったことから、今後、ケント体受容体あるいは中鎖脂肪酸受容体遺伝子欠損マウスを用いて比較検討することで、個体レベルでのより詳細な分子作用機序を検証する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
栄養素センサーとして同定されていた短鎖脂肪酸受容体(GPR41, GPR43)は、生体内のエネルギーバランス・栄養環境に応じて、短鎖脂肪酸とケトン体とを緻密かつ適切に認識することで全身のエネルギー代謝制御に影響を及ぼす可能性が推察されている。そこで、各GPCR遺伝子欠損マウス及び、昨年度までに作出したケトン体受容体GPR109A遺伝子欠損マウスを対象に、ケトジェニック環境下における個体レベルでのGPCRの機能解析を進める。さらに、今年度新たに見出された中鎖脂肪酸の生理調節作用に関しても、同様に中鎖脂肪酸受容体遺伝子欠損マウスを対象に、代謝表現型に関する多角的な解析を推進する。以上より、ケトジェニック環境下におけるGPCRを基軸とした栄養シグナル分子による新規のエネルギー代謝制御機構を明らかにする予定である。
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