ケトン体は、それ自体が代謝され細胞のエネルギー源となるだけでなく、エピゲノム修飾を調節する作用、Gタンパク質共役受容体を介した様々な機能、またメカニズムは不明であるが、食欲や炎症反応、寿命を調節するなど様々な作用を有している。細胞内のケトン体濃度は、合成、分解、細胞内局在、細胞内・外の輸送の4つのケトン体代謝の流れにより調節される。 細胞レベルでケトン体代謝の流れを検討した結果、腸管上皮細胞において、ケトン体産生がエネルギー源依存的に調節される一方で、細胞内・細胞外のケトン体輸送はエネルギー状態に依存せず、モノカルボン酸トランスポーターおよびmammalian target of rapamycin complex 1-オートファジー経路で調節されることが明らかとなった。さらにモノカルボン酸トランスポーターの発現を抑制すると、腸管上皮細胞の分化が抑制されることが明らかとなり、ケトン体代謝の流れの変化により細胞分化が調節される可能性が示された。 ケトン体代謝の流れが生体の代謝恒常性に及ぼす影響を明らかにするために、ケトン体代謝酵素の遺伝子改変マウスの肝臓および腎臓を摂食条件および絶食条件(ケトン体合成が高まる条件)で解析した。その結果、特に絶食時の腎臓においてタンパク質のアセチル化が遺伝子改変マウスで高値を示した。その調節機構の詳細は今後の検討課題であるものの、ケトン体代謝の流れが変化することで、タンパク質のアセチル化度合いの調節を介した様々な細胞機能へ影響を及ぼす可能性が示唆された。 以上のことから、ケトン体代謝の流れは様々な細胞、臓器において細胞機能を調節する役割を果たしており、栄養代謝と細胞機能を結び付ける一因子であることが考えられる。
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