研究課題
糖尿病治療薬であるメトホルミンは、AMPキナーゼ (AMPK)の活性化により糖新生を抑制することが知られている。しかしながら、AMPKによりリン酸化され薬効の発現を担う標的タンパク質など、その詳細な作用機序は明らかになっていない。これまでの研究において、メトホルミンによりCarbohydrate response element-binding protein (ChREBP)の活性が抑制されること、また、AMPKによるChREBPのリン酸化は、DNA結合を抑制することが明らかになっていた。そこで本研究において、メトホルミンの薬効発現におけるChREBPの関与を明らかにするため、ChREBPを発現させたHEK293T細胞にメトホルミンを加えた結果、濃度依存的にChREBPとMax-like protein x (Mlx)の結合が減少することが明らかとなった。また、AMPKのリン酸化部位であるSer568をアラニンに置換した変異体では、メトホルミンによるMlxの結合の減少はみられなかった。これらの結果から、メトホルミンはAMPKを活性化しChREBPのSer568をリン酸化することによりMlxとの2量体形成を阻害し、DNA結合を抑制することが明らかとなった。また、メトホルミンによるChREBPとMlxの結合阻害は、O-GlcNAc転移酵素 (OGT)を共発現することにより抑制され、この阻害効果はO-GlcNAc修飾非依存的に起こることが明らかとなった。本研究結果は、ChREBPがメトホルミンの標的タンパク質の1つであることを示すとともに、これまでにほとんど研究が行われていないChREBPとMlxの2量体形成を制御する因子を見出したことから、ChREBPのDNA結合のメカニズムの解明に資する一助となると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
メトホルミンによるChREBP活性阻害の分子メカニズムの解明に関しては、メトホルミンによるAMPKの活性化を介したSer568のリン酸化がChREBPとMlxの2量体形成を抑制することにより、ChREBPの活性を阻害することを明らかにした。一方、ChREBPが核に局在する割合は、メトホルミン処理により大きな変化をみとめなかった。これらの結果から、メトホルミンがChREBPの核移行に与える影響はわずかであり、主にDNA結合を阻害することにより活性を阻害していることを示唆できた。メトホルミンの薬理作用である糖新生の抑制におけるChREBPの関与に関しては、ラット肝初代培養細胞やHepG2細胞を用いた検討では、ChREBPの発現効率が低かったためChREBPの関与を明らかにすることができなかった。これに関しては、安定発現細胞を用いることにより明らかにすることができると考えられる。現在、すでにChREBPの野生型とドミナントネガティブ体の安定発現細胞の作成を行っており、研究計画に大きな遅れはないと考えられる。
これまでにMlxの結合部位が701-750番目のアミノ酸領域内にあることを明らかにしており、Ser568とはアミノ酸配列上では離れた位置にある。したがって、今後はメトホルミンによるSer568のリン酸化によりMlxの結合が阻害されるメカニズムについて明らかにするため、リン酸結合タンパク質である14-3-3がSer568のリン酸基に結合しMlxの結合を競合的に阻害する可能性について検討する。また、メトホルミンによる腸内細菌叢の変化が、腸管におけるChREBPの活性阻害に起因しているか明らかにするために、腸管におけるChREBPの役割について検討する。まずは大腸癌細胞を用いてChREBPの過剰発現によりトランスポーターの局在が変化するかについて検討を行う。
コロナ禍のため参加を予定していた学会がWeb開催となり、旅費を使用する必要がなくなった。使用しなかった旅費は消耗品費として使用した。次年度使用額も消耗品費として使用する予定である。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Biochemical Journal
巻: 477 ページ: 3253-3269
10.1042/BCJ20200520
http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~siba/index.html