研究課題/領域番号 |
20K11628
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
中川 勉 北海道医療大学, 薬学部, 准教授 (50722063)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ChREBP |
研究実績の概要 |
糖尿病治療薬であるメトホルミンは、AMPキナーゼ(AMPK)の活性化により糖新生を抑制することが知られている。しかしながら、AMPKによりリン酸化され薬効の発現を担う標的タンパク質など、その詳細な作用機序は明らかになっていない。昨年度までの検討において、メトホルミンによるAMPKの活性化によりCarbohydrate response element-binding protein (ChREBP)のSer568がリン酸化されると、ChREBPとMax-like protein x (Mlx)の2量体の形成が阻害され、DNA結合が抑制されることを明らかにした。本年度は、Ser568のリン酸化によりMlxの結合が阻害されるメカニズムを明らかにするため、Ser568のリン酸基に対する14-3-3の結合を検討した結果、Ser568のリン酸基に対して14-3-3は結合しないことを明らかにした。また、昨年度までの検討においてメトホルミンによるChREBPとMlxの結合阻害効果は、O-GlcNAc転移酵素(OGT)を共発現することにより消失することを明らかにした。さらに、OGTによるChREBPとMlxの結合阻害効果は、O-GlcNAc修飾非依存的に起こることを明らかにした。本年度は、ChREBPと結合できないOGTの変異体であるAsp554Asn変異体を用いた検討により、Asp554Asn変異体を共発現した際のChREBPとMlxの結合は、野生型のOGTを共発現したときと比べて小さいことを明らかにし、ChREBPとMlxの結合には、OGTタンパク質がChREBPと結合する必要があることを示唆した。以上の結果から、メトホルミンがChREBPの活性を阻害する分子メカニズムとして、AMPKの活性化によるSer568のリン酸化がChREBPとOGTの結合を阻害することにより、ChREBPに対するMlxの結合を阻害し、ChREBPのDNA結合を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ser568はMlxの結合部位である701-750番目のアミノ酸領域からアミノ配列上離れているため、研究計画の段階では、リン酸化結合タンパク質である14-3-3によりMlxの結合部位がマスクされることを考えていたが、本年度の研究結果からSer568のリン酸基に対して14-3-3は結合しないことが明らかとなり、Ser568のリン酸化によるDNA結合阻害効果に14-3-3は関与しないことが明らかになった。一方、OGTのAsp554Asn変異体を用いた検討により、OGTタンパク質のChREBPに対する結合がChREBPとMlxの結合に影響を与えることが示唆された。これらの結果から、Ser568のリン酸化によるChREBP-Mlxの2量体形成阻害の分子メカニズムとして、計画段階で考えていた14-3-3によるMlxの結合阻害ではなく、Ser568のリン酸化がChREBPに対するOGTの結合を阻害する結果、ChREBPとMlxの2量体形成が阻害される可能性が示唆された。 以上の結果から、当初の予定とは異なるものの、メトホルミンによるChREBPの活性阻害に関して、新しい分子メカニズムを示唆できており、研究計画に大きな遅れはないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
OGTタンパク質がChREBPとMlxの結合に関与していることが示唆されたことから、ChREBPとMlxの結合をOGTが仲介し、ChREBP-OGT-Mlxのヘテロ3量体を形成していると考えられるため、まずはOGTとMlxが結合しているか検討を行う。これが明らかになれば、Ser568のリン酸化がChREBPとMlxの結合を阻害するメカニズムとして、ChREBPとOGTの結合を阻害している可能性が考えられることから、ChREBPに対するOGTの結合におけるSer568のリン酸化の影響について検討を行う。また、ChREBPとOGTの結合は、Host Cell Factor (HCF)-1が仲介していることから、ChREBPに対するHCF-1の結合部位がSer568周辺である可能性が示唆され、ChREBPに対するHCF-1の結合部位についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、1426円と少額であり、ほぼ使用計画にしたがって使用できたと考えられる。
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