これまでの検討から、抗うつ作用を有する天然由来化合物を探索する目的 で培養神経幹細胞を用いたスクリーニング行い、神経幹細胞増殖促進活性を有する化合物として米ぬかなどに多く含有されるフェルラ酸に活性を見いだすとともに、慢性マイルドストレス負荷マウスで出現するうつ病様行動を改善するなどin vivoでの有効性を報告している。最終年度においては、発育期の環境が神経精神機能に異常を引き起こす動物モデルとして隔離飼育マウスを用いてフェルラ酸の薬効を評価した。具体的には、3週齢から9週齢までの隔離飼育したマウスに対しフェルラ酸を経口投与し各種行動薬理学的解析を行った。その結果、早期隔離飼育マウスで観察される攻撃行動、新奇マウスと遭遇した際の多動、及び新奇環境下での多動は50 mg/kgの用量でフェルラ酸を投与により抑制された。 5-HT2A受容体刺激薬DOIを投与したげっ歯類では特異な首振り行動が出現することが知られており、ヒトの幻覚症状のモデル動物とされるが、フェルラ酸(50 mg/kg)の経口投与により、DOI誘発首振り回数は部分的ではあるが有意に減少した。フェルラ酸による早期隔離飼育マウスでの多動やDOI誘発首振り運動に対する抑制作用は、5-HT1A受容体アンタゴニストであるWAY-100635の投与により消失した。 これらの知見は、フェルラ酸の摂取が発達障害様の行動異常を改善する可能性を示唆するものと考えられる。 前年度までの研究結果と合わせて本研究成果は、葉酸やフェルラ酸などの食品由来成分の摂取が脳・精神系機能の健全性に役立つ可能性を示唆するものであり、日々の食生活の重要性についての国民意識を高めることにより、我が国の健康福祉に貢献できる可能性が期待される。
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