脂肪酸結合タンパク(FABP)は細胞内の脂肪酸局在を決定し得る脂肪酸のキャリア分子であり、同時に脂肪酸シグナル伝達系にも関与し、エネルギー代謝のみならず遺伝子転写の制御も担う重要な分子群である。これまでに野生型とFABP5-KO胸腺上皮細胞の間でケラチン(Krt)42遺伝子の発現差が見出されており、ISHによる遺伝子発現部位検索やKrt42に対する特異抗体の作製と、その反応特性の検定等を行ってきた。令和4年度は、より詳細な抗マウスKrt42抗体の検定と組織学的な発現部位探索を主に実施した。マウス胸腺上皮細胞で発現が報告されているKrt5、8に加えてKrt42と相動性が高いKrt17のcDNAを上皮細胞以外の細胞株(NIH3T3)に発現させ、全タンパク質を抽出しwestern blotを行った結果、抗Krt42抗体はKrt5、8および17を認識せず、Krt42のみを認識した。また、抗Krt5、8抗体はKrt42を認識しなかったが、抗Krt17抗体はKrt42を認識した。すなわち、今回作製した抗Krt42抗体は、Krt42のみを認識する特異性が高い抗体であった。しかし、Krt42は抗Krt17抗体により認識されたことから、分析においては抗体の性状と組合せに注意する必要がある。この抗Krt42抗体を用いて胸腺組織を染色した結果、胸腺上皮細胞の細胞質に加えて細胞核にも陽性反応が検出された。Krt42は(恐らくは)細胞骨格としての機能のみならず、核内でも何らかの機能を有する可能性が示唆された。 Krt42遺伝子発現はFABP5が関わる脂肪酸シグナル伝達系の下流に位置するか否かを検討するため、Krt42遺伝子の上流領域のクローニングとLucアッセイを試みていたが、諸事情も絡み、予定期間内に完了することが出来なかった。しかしながら、本報告作成時点で続行中であり、今後も引き続き実施する。
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