研究課題/領域番号 |
20K11644
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
内田 文彦 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70736008)
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研究分担者 |
鈴木 英雄 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00400672)
呉 世昶 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (10789639)
岡田 浩介 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80757526)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肥満 / NAFLD / 歯周病 / 運動療法 / 口腔内細菌叢 / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
1歯周病はさまざまな全身疾患と関連しており,特に,メタボリック症候群の患者で、高い有病率が見られる.メタボリック症候群は,肝臓においては,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎 (nonalcoholic steatohepatitis: NASH)といった形で現れる.また,身体活動と歯周病の発症には関連性があると考えられているが,エビデンスには乏しいのが現状である.NAFLDやNASHの一般的な治療法は,食事および運動療法であり,本研究チームはこれまでに,NAFLDやNASH患者について,運動療法後に歯周病菌が減少することを報告してきた.そこで本研究では,そのメカニズムを解明するために,運動療法の介入前後の唾液成分の分析と口腔内細菌叢のゲノム解析を実施した。 歯周病と診断されたNAFLDの中年肥満男性49名を対象に,3か月間の運動療法を実施し,その前後で唾液を収集し,炎症に関わる物質である唾液中の免疫グロブリンA(IgA),菌体内毒素lipopolysaccharide(LPS),TNF-α,ラクトフェリンの測定,および,口腔内細菌叢のゲノム解析を実施した.また,中年肥満男性21名を対象に食事療法を実施し,運動療法の効果との比較をおこなった. その結果,運動療法によって,口腔内細菌叢の種多様性が増大すること,また,LPS産生に関わる歯周病菌の菌数とLPS産生能が減少することが分かりました.すなわち,運動療法には,口腔内環境を改善する新しい効果があることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本学において実施された「減量教室」の参加者のうち49名を対象に,講義とレジスタンス運動,有酸素運動を,1回90分,週3回行うプログラムを12週間に実施した.また,食事介入を,同じく21名を対象に,栄養や食習慣についての講義や相談を,1回90分,週1回行うとともに,毎食摂取した品目を記録し,1食560kcal,1日1680kcalを目標値とするプログラムを12週間に実施した. 運動介入前後で採取した唾液を用いて口腔内細菌叢のゲノム解析を行い,α多様性において有意差は認めなかったものの,介入後に菌の種多様性が増大する傾向が見られました.また,β多様性については有意差が認められ,種多様性の増加が認められました. 口腔内の菌種組成比解析では,口腔常在細菌であるActinomyces,Corynebacterium,Lautropia,Campylobacterの菌数が運動介入後に増加した一方,歯周病発症に関わるとされるPrevotellaは減少した.加えて,メタゲノム機能予測の解析では,LPS生合成に関わる各代謝経路において,代謝遺伝子群の発現量の減少が認められた. 本研究は,運動療法が口腔内環境に及ぼす効果として,唾液中の炎症に関わる物質の濃度減少,口腔内細菌の種多様性増大,口腔内細菌のLPS生合成に関わる遺伝子の発現量減少を明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果により,運動療法が口腔内環境に及ぼす効果として,唾液中の炎症に関わる物質の濃度減少,口腔内細菌の種多様性増大,口腔内細菌のLPS生合成に関わる遺伝子の発現量減少が判明した.特に,運動療法が口腔内細菌叢の種多様性を増大させたことは注目に値する.種多様性の増大によって,口腔内マクロファージの異物貪食能が増大するとともに,唾液中のLPSとTNF-alphaを減少させて炎症病態を軽減し,歯周病の臨床指標の改善をもたらすメカニズムが推測された.肥満者の口腔内dysbiosisの改善を介したNASH肝病態の改善とその分子メカニズムについて解明していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に発注した物品の納品が遅延した。
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