研究課題/領域番号 |
20K11646
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 匠 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (80379007)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 加齢 / クリスタリン / 異性化 / 白内障 / 抗体試薬 / 結合型D-Asp |
研究実績の概要 |
生体を構成する蛋白質はすべてL-アミノ酸から成るが、蛋白質中には加齢に応じて自発的、部位特異的に異性化(D-化やβ-化)するAsp部位が存在する。異性化Asp形成は蛋白質の構造変化を引き起こすため、その蓄積は老化に伴う蛋白質の機能低下や、加齢性疾患(白内障、皮膚硬化、アルツハイマー病など)の発症へ繋がると考えられる。それ故、異性化Aspの定量解析が老化分子マーカーおよび加齢分子マーカー(以下、老化分子マーカー)としての確立に必須であり、その蓄積部位の特定は加齢性疾患の発症部位予想に有効である。本研究では、これまでに開発してきた異性化Aspの定量解析手法を用いて、新しい老化分子マーカーと成り得る蛋白質分子内の老化分子マーカー局在部位を可視化する。 本年度は、開発・改良を加えてきた異性化Aspの定量解析手法を、実際に生体内および生体外の蛋白質試料へと用い、それぞれの内部Asp異性化を評価することを目的とした。MRM手法では標的分子クロマトグラム抽出に際して①標的の分子量、②標的から生じるフラグメント分子量の2条件を最適化したメソッド(以下、最適化メソッド)を作成するため、メソッド作製のための標品を必要とする。標品としては、水晶体由来の蛋白質(および、そのモデルペプチド)、抗体試薬(および、そのモデルペプチド)を用意し、加温や放射線照射により人為的に酸化および異性化修飾を誘導し、それを用いたメソッドの作製と最適化を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
修飾誘導モデルペプチドを用いたメソッドの作製に複数成功した。現在、実験対象を蛋白質試料へと移行している段階である。修飾誘導モデルペプチドの場合、非常に厳しい条件下で、迅速な修飾誘導を行うため、ペプチド中に多量の修飾が生じており、それを原因とした不溶化などが生じたものもあった。おそらく、蛋白質へと標的を移した場合、同様のケースでは、それらが質量分析前の酵素消化の妨げになる可能性がある。 また、本年度より独立し新しく研究室を立ち上げたため、その準備等に時間を要した。加えて、その際に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言に伴う研究活動の停止が重なり、全体のスケジュールを大きく変更せざるを得なかったため、研究の進行に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは様々な世界情勢を想定し、どのような場合が生じても、なるべく長期加温実験が妨げられないような研究体制を整える。蛋白質中のアミノ酸修飾は環境に応じ、時間経過とともに修飾を受け、変遷し、総合的な影響を当該蛋白質自体に及ぼすと考えられる。したがって、修飾が生じた際のタンパク質の性質変化も、あらかじめ考慮するべきである。加温試験と並行し、修飾を含む蛋白質を作出して物性の調査を行うことなどで、これらの変化に対応しながら考察を進めたい。また現在、時間の節約などの観点から非生理的な環境で迅速にAsp異性化を誘導し、高温での修飾誘導から計算科学的に体温および低温での反応速度係数を求める予定である。しかしながら、標的修飾以外の修飾発生などにより不溶化などが多量に生じる場合などは、ある程度nativeな環境を用意し、時間をかけて異性化を誘導する方策をとる。
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次年度使用額が生じた理由 |
変更交付決定(基盤研究(C)における独立基盤形成支援(試行)):2020年10月20日 による。本年度に購入した装置関連品目購入のために、次年度基盤研究(C)と合算使用する予定である。
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