研究課題/領域番号 |
20K11647
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
原田 優美 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 技術補佐員 (80568395)
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研究分担者 |
粟飯原 睦美 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (60596211)
下畑 隆明 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (90609687)
馬渡 一諭 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (40352372)
高橋 章 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (90304047)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カンピロバクター / LED / 殺菌 / 鶏肉 |
研究実績の概要 |
カンピロバクター(Campylobacter jejuni)は日本で頻発する食中毒の原因菌であり、本菌で汚染された鶏肉の摂取によって食中毒が発症する。カンピロバクターは家禽類の腸管常在菌として広く分布しているため、食鳥処理場工程(特に脱羽→浸水冷却)で、鶏糞便の漏出・拡散が生じ、鶏肉表が汚染される事が、食中毒発生のリスクを高める要因となっている。浸水冷却用チラー水には汚染防止の目的で、多量の塩素が導入されているが、大量の有機物が含まれたチラー水では塩素の殺菌消毒作用が十分に発揮されないという問題がある。そのため食鳥処理場ではカンピロバクター汚染拡大を防ぐ新たな殺菌システムの導入が求められている。申請者は令和2年度の研究において近紫外線発光ダイオード(UVA-LED)がカンピロバクター殺菌に有用であること、また塩素存在下で殺菌効果が増強する事を明らかにし、UVA-LEDと塩素の併用により肉表面のカンピロバクターも、効率的に殺菌することを証明してきた。 令和3年度の研究として、塩素の殺菌消毒とUVA-LEDの併用殺菌の安全面や、食肉品質への影響を調べ、殺菌システムとしての安全性や有用性についてさらに詳細な検討を行った。新たに栄養成分、呈味成分の変動に着目し、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)システムを用いて鶏肉のアミノ酸、有機酸、ATP関連化合物について解析を行い、UVA-LED照射による肉質変化について解析を進めた。 また令和3年度の研究では、肉成分の存在下での殺菌実験を行い、UVA-LEDは塩素とは異なり、肉成分の存在下でも有効な殺菌能を発揮することを明らかにしてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度に市販鶏肉を用いた、カンピロバクター汚染肉モデルの構築に成功している。この汚染肉を用い、令和2年度にはUVA-LEDの殺菌評価や、肉の色調変化について解析を行なってきた。令和3年度にはUVA-LEDの食肉への影響を調べるため、新たに栄養成分、呈味成分の変動に着目し、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)システムを用いて鶏肉のアミノ酸、有機酸、ATP関連化合物について解析を行った。実際には測定値については個体差が大きく、UVA-LEDの影響を正確に検出することができなかったものの、UVA-LEDの照射で著しい栄養成分、呈味成分の減少は認められなかった。 また令和3年度は塩素存在下でカンピロバクターのUVA-LED光殺菌効果増強される機序解明に向けた検討にも着手してきた。肉抽出エキスを作成し、カンピロバクターの殺菌効果を評価したところ、塩素による殺菌効果は肉エキスの添加によって著しく低下する事が明らかとなり、一方でUVA-LEDの殺菌は、肉エキスの添加によって殆ど変化しないことも明らかとなった。これらの結果から肉成分は塩素の殺菌効果を著しく弱めること、UVA-LED光殺菌効果には影響しない事が明らかとなった。UVA-LED殺菌は食鳥処理場などで用いられている、既存の塩素殺菌よりも有効な殺菌能を示す事が考えられた。塩素とUVAの併用では、肉成分で抑制された塩素殺菌効果がUVAの光効果で変化した可能性が考えられる。令和4年度は塩素とUVAの併用殺菌のメカニズムの解明に着手したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究では塩素とUVA-LED照射による、殺菌増強メカニズム解明に向けた検討を行う。肉成分存在下でUVAは殺菌能力に変化がなかったが、塩素は著しく殺菌能が低下する事が明らかとなっている。塩素殺菌時に応答するカンピロバクター遺伝子を検索し、塩素とUVA併用殺菌時に塩素殺菌能力が回復していることを、カンピロバクターの応答性から証明していきたいと考えている。 これまでの検討では市販鶏肉を用いてUVA-LEDの殺菌評価、塩素とUVAの併用効果を明らかにしてきた。しかしながら市販の鶏肉(主にササミ)を用いた検討からは、食鳥処理場でUVA照射を導入するポイントを明確にする事ができず、ササミへの照射ではUVAの照射が鶏肉加工後のポイントに限られてしまう懸念がある。UVAと塩素の併用効果を考えた場合、塩素が多く含まれる脱羽後のチラー工程でUVAの照射を行うことが望ましが、脱羽後のと体(丸鶏)を用いた実験を行い、UVA照射の殺菌効果を確認する必要がある。令和4年度には新型コロナウイルス、鳥インフルエンザの影響で遅延していた、脱羽後のと体を用いた殺菌評価に挑戦し、複雑な表面をもつ丸鶏に対して有効な光照射方法を検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に使用するプラスチック消耗品が、欠品遅延によって納品が遅れたたため、次年度使用料が生じた。翌年度分として請求した研究費を合わせて、プラスチック使用量として次年度に利用する。
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