研究課題
カンピロバクター(Campylobacter jejuni)は日本で頻発する食中毒の原因菌であり、本菌で汚染された鶏肉の摂取によって食中毒が発症する。カンピロバクターは家禽類の腸管常在菌として広く分布しているため、食鳥処理場工程(特に脱羽→浸水冷却)で、鶏糞便の漏出・拡散が生じ、鶏肉表が汚染される事が、食中毒発生のリスクを高める要因となっている。浸水冷却用チラー水には汚染防止の目的で、多量の塩素が導入されているが、大量の有機物が含まれたチラー水では塩素の殺菌消毒作用が十分に発揮されないという問題がある。そのため食鳥処理場ではカンピロバクター汚染拡大を防ぐ新たな殺菌システムの導入が求められている。これまでの先行研究において、近紫外線発光ダイオード(UVA-LED)はカンピロバクターに対して強力な殺菌効果を示すこと、また塩素存在下ではさらに殺菌効果が増強する事が明らかとなってきたため、本研究では食鳥処理場所に応用する新しい殺菌システムとして、UVA-LEDと塩素併用の有用性について検討を行った。令和3年度までの研究から肉表面に付着したカンピロバクターに対し、塩素存在下でUVA-LED照射を行った場合、それぞれ単独よりも優れた殺菌効果が得られることが明らかとなってきた。また今回使用したUVA-LEDの照射強度では、光照射では肉の色調には変化が及ばず、肉質の劣化を伴わない殺菌効果が得られている可能性が示された。令和4年度には殺菌メカニズム解明のため、UVA-LEDの処理、塩素の処理、双方の併用処理の菌を回収し、DNAの酸化について評価を行ってきたが、カンピロバクターではDNAの酸化障害よりも先に、菌が死滅してしまうため、DNA酸化を評価系として殺菌メカニズムを解明することができなかった。