研究課題/領域番号 |
20K11649
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研究機関 | 青森県立保健大学 |
研究代表者 |
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
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研究分担者 |
向井 友花 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 教授 (60331211)
山岡 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 実験・実習助手 (40830823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胎生期低栄養 / 骨格筋 / ポリフェノール / マクロファージ / オートファジー |
研究実績の概要 |
サルコペニアは、加齢、低栄養あるいは不活動などによる筋萎縮や筋肉の機能低下といわれている。一方、近年、妊娠期に低タンパク質食を摂取した母ラットから産まれた仔ラットの骨格筋では、筋線維束や神経筋接合部の発達の障害が報告されている。また、胎生期の低栄養により、児の骨格筋では慢性炎症が生じるという。 本研究では、発育初期に摂取するケルセチン(植物由来のポリフェノール)の仔ラットの骨格筋における生理機能を明らかにするために、妊娠期に低タンパク質食を、授乳期にケルセチン含有低タンパク質食を摂取した母ラットから産まれた仔ラットの離乳後に、45週齢まで高脂肪食を負荷した。令和2年度はこの実験から得た試料を用いて、腓腹筋中の炎症に関わる細胞(マクロファージなど)の浸潤、線維化、オートファジー並びにアポトーシスに及ぼす影響を検討した。その結果、授乳期にケルセチンを摂取し離乳後に高脂肪食を負荷した仔ラットの骨格筋では、単位面積当たりのマクロファージ数は増加し、線維化やアポトーシスの誘導に関与するTransforming growth factor(TGF)-β1のタンパク質発現量は増加した。オートファジーの指標であるLC3Bのタンパク質発現量は減少した。加えて、アポトーシス関連タンパク質であるcleaved caspase 3のレベルが増加した。これらの結果から、授乳期にケルセチン含有食を摂取した母ラットから産まれた仔ラットの骨格筋では炎症は促進し、オートファジーは抑制される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
授乳期にケルセチンを摂取し離乳後に高脂肪食を負荷した仔ラットの腓腹筋では、マクロファージの浸潤は増加し、線維化に関与するTGF-β1のタンパク質発現量は増加した。また、オートファジーの指標であるLC3Bのタンパク質発現量は減少した。このことは、発育初期にケルセチンを摂取すると、長期にわたって、仔の骨格筋の炎症を引き起こし、筋萎縮をアクセレレートさせる可能性を示唆していた。これまでの成果をまとめて、現在、国際学術雑誌への投稿を準備している。 一方、植物ポリフェノールの化学構造などの違いによっては、骨格筋の慢性炎症を抑制するのか、よくわかっていない。そこで、授乳期に摂取する植物由来のポリフェノール(ケルセチン以外)は仔ラットの骨格筋の慢性炎症、線維化並びにタンパク質分解を促進あるいは抑制するかを検討するために、動物実験を進めている。以上のことから、初年度は概ね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
授乳期に摂取するポリフェノールの仔ラットの骨格筋における生理機能を明らかにするために、令和2年度で検討したケルセチン以外の植物ポリフェノールを用いて、仔ラットの慢性炎症、線維化並びにタンパク質分解を促進あるいは抑制するかを検討する。たとえば、マクロファージの浸潤や線維化面積の計測、オートファジーやアポトーシスにかかわる因子のタンパク質やmRNAの発現量などを解析する。以上のような研究を通して、授乳期に摂取するポリフェノールが胎生期の低栄養に起因する児の筋萎縮を、生涯にわたって促進あるいは抑制するかを考察する。さらに、結果を取りまとめて、成果の発表を行う。
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