研究課題/領域番号 |
20K11684
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
斎藤 明 日本大学, 文理学部, 教授 (90186924)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グラフ / ハミルトンサイクル / パス / サイクル / 次数 / 辺着色 / 禁止部分グラフ |
研究実績の概要 |
本年度は内周に制限を与えた状況において、グラフのサイクル構造を捉える不変量を探った。グラフ G における互いに隣接しない k 頂点の次数の和の最小値を次数和とよび、 σ(k, G) と表す。またグラフの最長パスと最長サイクルの位数の差を r(G) と表す。2-連結グラフ G がハミルトンサイクルを持つことと、r(G)=0 であることは同値である。本研究代表者は 1995年に位数 n の 2-連結グラフ G が σ(3,G)≧n+2 を満たせば r(G)≦1 であることを示した。一方 Paulusma と善本は2008年に、 G の内周が 4 以上であるとき σ(4, G)≧n+2 であれば r(G)≦1 であることを示し、本研究代表者の1995年の結果を拡張した。上記の結果を踏まえ、本研究代表者は位数 n であり内周が 4 以上のグラフが σ(4, G)≧n+1 を満たせば、r(G)≦2 であることを証明し、Paulusma-善本の結果を拡張した。 また本研究代表者は辺着色された完全グラフにおける虹色禁止部分グラフの関係を調べた。辺着色された完全グラフ K とその部分グラフ H について、H の各辺の色が全て異なっていれば、H を K の虹色部分グラフとよぶ。一方 K の中に H と同形な虹色部分グラフが含まれなければ、K は虹色 H-フリーであるという。H' が H の部分グラフならば、その定義から任意の 虹色 H'-フリーな辺着色完全グラフは虹色 H-フリーである。では逆に H が H' の真部分グラフであるとき、十分な色数で辺着色された虹色 H'-フリー辺着色完全グラフが常に虹色 H-フリーとなることはあるだろうか。本研究代表者はこのような H と H' の組が存在することを証明し、さらにそのような H と H' の組を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた r(G) は、グラフ G がハミルトンサイクルを持つグラフにどれだけ近いかを示す尺度となる。本研究代表者の 1995 年の結果は、位数 n の 2-連結グラフ G が σ(3,G)≧n+2 を満たせば、「G はハミルトンサイクルを持つ一歩手前の状態になっている」ことを示している。一方 Paulusma-善本の結果は、内周が 4 以上の 2-連結グラフについて σ(4, G)≧n+2 の段階で既に G が同じ状態になっていることを示している。 本研究代表者は1999年に、k<n+2 なる非負整数 k について、 σ(3, G)≧n-k+1 の仮定の下で r(G) を k の関数で上から抑え、r(G) の数値的な振る舞いを明らかにした。そしてPaulusma-善本の結果もまた、σ(4, G)≧n-k+1 の仮定の下で同様の結果に拡張できると予想している。研究実績の概要で述べた結果はこの予想が k=0 で成り立つことを示す。その証明の多くの部分は k=0 という事実を使っていない。従って一般の k について予想を証明する十分な手応えを得ている。 一方内周 4 以上という仮定は「位数 3 のサイクルを部分グラフに含まない」ことと同値であり、禁止部分グラフの言葉に置き換えられる。実際上記の定理の証明においても、その多くの議論は他のグラフを禁止しても成立する。そこで本研究代表者は、このような禁止部分グラフの問題にも取り組み始めた。本研究代表者は、まず必ずしも2色と限らない色数で辺着色された完全グラフの問題と考え、虹色禁止部分グラフの間に特殊な依存関係があることを突き止めた。 以上のように、本研究はサイクル構造を捉える不変量を禁止部分グラフの観点から捉える方向性を見いだした。最終年度に向けて研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、まず現在までの進捗状況で述べた内周 4 以上の 2-連結グラフにおいて、σ(4, G)≧n-k+1 の仮定の下で r(G) を k の式で上から抑えることを目指す。本年度の研究で k=0 の場合は解決した。一般の k については、帰納法によるアプローチを試みる。 また不変量 r(G) の有効性を示すために、r(G) が上から抑えられる事実をより深くサイクルと関連付ける。r(G)=1 なるグラフ G におけるサイクルの分布は詳しく調べられている。しかしより大きい定数 c について r(G)≦c であることが、サイクルの分布にどれだけ関わっているかについては、完全には解明されていない。この点の研究を進め、r(G) とサイクル分布の関係をより明確なものとする。 一方 Paulusma-善本の結果を拡張することで、本研究が禁止部分グラフと深く関わることが分かってきた。これは研究開始時には見えていなかった新たな知見である。内周 4 以上の仮定は、対象となるグラフが位数 3 のサイクルを誘導部分グラフに含まないことと同値である。すると他の部分グラフを禁止しても、同様に r(G) が次数和がより密接に関わりあうのではないかという疑問が生まれる。まずはより長いサイクルを禁止することから始め、この疑問を解明したい。 与えられたグラフとその補グラフを同時に考えると、それは2色で辺着色された完全グラフとなる。辺着色された完全グラフの禁止部分グラフに関する研究は近年大きく進展している。この研究から本研究に応用できる知見を見いだすため、本年度から辺着色された完全グラフの研究を始めた。本年度は虹色部分グラフを考えたが、本課題研究はむしろ単色の禁止部分グラフを扱う問題に近い。次年度はそうした問題にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究申請時には想定していなかったコロナ禍により、研究情報を収集する環境は大きく変化した。当初は海外研究者との対面討論を数多く行う予定を立てていたため、申請時には研究経費の大きな部分を海外出張に充てていた。しかしコロナ禍により海外出張の可能性は絶たれた。オンラインでの討論も試みたが、対面討論を完全に代替するには至らなかった。ある程度構想がまとまった研究の細部を詰めていく場合、オンライン討論は有効であった。しかし全く何もない状態から「着想の種」を拾う作業をオンラインで実行することは困難だった。 そこで現段階の代替手段として、グラフ理論関係の電子雑誌を購読することにした。これは着想の種を生み出す作業には役立った。しかし当初予定していた方法とは全く異なるため、経費使用を完全に合わせることはできず、経費使用に残が生じた。 次年度の海外出張の可能性はまだ不透明だが、少なくとも年度前半までは海外出張が可能となることを信じて残額を海外出張の経費に充当する。もしそれが不可能と分かれば、再び電子雑誌購読に経費を充てていく。
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