研究課題/領域番号 |
20K11693
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷口 隆晴 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (10396822)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ニューラルシンプレクティック形式 / ハミルトン方程式 / 深層学習 / 幾何学的深層科学技術計算 |
研究実績の概要 |
2021年度は,主に,与えられた時系列データの背後に潜むシンプレクティック構造を抽出する手法の開発に取り組んだ.実際の問題に現れる,保存量をもつ微分方程式の多くはハミルトン方程式であるが,ハミルトン方程式はシンプレクティック多様体上で,エネルギー関数が定めるフローとして定義される.シンプレクティック多様体は,シンプレクティック形式と呼ばれる微分2形式をもつ多様体であるが,これは,一般には,状態変数に依存してよい量であり,データから学習することが必要である. 一般に,微分2形式は歪対称行列に対応するため,素朴な手法としては,データから歪対称行列を学習する手法が考えられる.しかし,実際には,シンプレクティック形式は閉形式である必要もあり,単に歪対称行列を学習するだけでは,シンプレクティック形式に対応するとは限らない. 本研究では,de Rhamコホモロジーを考慮すると,多くのシンプレクティック多様体上で,シンプレクティック形式が微分1形式の外微分によって導かれることに着目した.具体的には,微分2形式を直接学習するのではなく,それを導く微分1形式をデータから学習することで,シンプレクティック形式以外に対応しない歪対称行列が学習されることを防ぐ手法を構築した. この手法を用いれば,与えられたデータに隠されたシンプレクティック構造を抽出することが可能となり,隠された運動方程式を発見することが出来るようになる.また,提案手法は,ハミルトン方程式の幾何学的な性質,特に座標変換不変性を利用しており,データがどのように表現されていたとしても,方程式を学習することが可能である.そのため,データの前処理とも相性が良く,この性質は,今後,様々な形で応用できる可能性がある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この手法は,本研究で目標としていた,データや,それから学習されたブラックボックスモデルに対して,隠れたハミルトン構造を抽出することを可能とするものである.抽出されたハミルトン構造とネーターの定理を利用すれば,隠された保存則が抽出可能となると期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでに開発してきた手法を実際のネットワーク上のダイナミクスなどへ適用していく.将来的には実データに対して適用していきたいが,まずは,理論的に保存則が存在することが分かっているモデルに対して適用し,その性能・性質を調べる. 具体的には,ネットワーク上のダイナミクスとして,何らかの相互作用を伴う微分方程式系を考え,一度,それをブラックボックスモデルで近似する.そして,それに対して,ニューラルネットワークなどを用いたモデルを実際に作成し,それがもつ保存則を推定する.相互作用を伴う系としては,例えば,感染症のモデルなどが考えられるが,可能であれば,N体問題などの物理学モデルへも応用してみる. また,2021年度に構築したニューラルシンプレクティック形式という手法は,隠れたシンプレクティック構造を発見することが可能な手法だが,これを機械学習における特徴抽出手法と連携させると,様々なデータに隠れた保存則を探すことも出来るはずである.そのような手法と組み合わせれば,動画像データや様々なデータテーブルなどに基づいた予測を行うことが出来る可能性もあるため,そのような応用にも取り組む.
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定されていた学会が,当初,対面開催の予定であったものの,コロナウィルスの感染防止のために,オンライン開催に変更になったため.今年度の利用については,研究が進み,様々な実験が出来るようになった一方,計算機が不足しているため,その購入にあてる.
|