研究課題/領域番号 |
20K11702
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小池 健一 日本大学, 商学部, 教授 (90260471)
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研究分担者 |
橋本 真太郎 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (60772796)
赤平 昌文 筑波大学, 数理物質系(名誉教授), 名誉教授 (70017424)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ベイズリスク / 情報不等式 / 有効推定量 |
研究実績の概要 |
統計的推測理論において、推定量の良さはリスクを用いて測ることが重要である.ベイズ推測では、ベイズリスクを用いて評価を考える.ベイズリスクの評価を与える不等式には様々なものが存在し、van Trees (1968)やBorovkov and Sakhanenko (1980)によるものがよく知られている.不等式の等号を達成する推定量を有効推定量というが、有効推定量であれば効率よく推定できることになり、推定量の評価は適切になる.しかしながら、Koike (2012)で示されたように、有効推定量となるのは非常に限られた条件下でのみ起こりうることがわかった.そこで、更なる改良した不等式について研究を進めた.これについては、差分型の情報不等式がBobrovsky, Mayor-Wolf and Zakai (1987)により得られている.これはvan Trees型の情報不等式であり、漸近的にはBorovkov and Skahanenko型の不等式に対して劣っていることがAbu-Shanab and Veretennikov (2015)やKoike (2020)で示されている.そこで、差分0に収束させるとBorovkov and Skahanenko型の不等式に収束するような差分型の情報不等式を提案した.この不等式は、十分小さい差分のときには、Bobrovsky , Mayor-Wolf and Zakai (1987)の下界を漸近的に優越していることが示される.また、具体的にデータの確率分布と事前分布を与えて、優越の度合いを示した.これの結果は、漸近的ではなく、固定標本でも新しい下界がBobrovsky, Mayor-Wolf and Zakai (1987)の下界を優越していることを示している.これらの結果をKoike and Hashimoto (2021)でまとめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Koike and Hashimoto (2021)において、ベイズリスクに対する漸近的に優れた差分型の下界を得ることができた.この下界は,Bobrovsky, Mayor-Wolf and Zakai (1987)の下界を漸近的に優越した下界となっている.実際、平均パラメータが未知母数の正規分布の場合に、共役事前分布である正規分布を事前分布として用いて、漸近的に優越することを明らかにできた.また、ベルヌーイ分布でlogitモデルの場合に、一般化ロジスティック分布を用いて、サンプルサイズが1の際にも同様な結果を得た.この場合はサンプルサイズがnのときには解析的な結果が得られないので、ラプラス近似を用いて下界の漸近表現を得た.その結果、やはり新しい下界が漸近的にBobrovsky, Mayor-Wolf and Zakai (1987)の下界を漸近的に優越することが示せた. 様々な下界に対する漸近的な評価に関しても、良い結果が少しずつ得られているので、順次発表していきたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
大標本、すなわちサンプルサイズが大きいときにベイズ型情報不等式の下界の比較を行うことが次の目標の一つである.推定量のベイズリスクに対する効率を測る際には有効であるか否かが指標の一つであることから、推測理論における重要な課題であるといえる.しかしながら、Koike(2021)によれば、サンプルサイズが固定されている場合には、等号達成は限定的であることがわかった.では、リスクの評価式として不等式は役に立たないかというとそうではない.サンプルサイズをnとすると、一般にベイズリスクは1/nの次数を持つので、ベイズリスクの評価式をn倍して極限を取ることで、基準化したベイズリスクの評価式を考えることができる.この不等式の等号達成を漸近有効と呼ぶことにすれば、どのような確率モデルに関してどのような条件下でどのような漸近有効となるか,また,どのような事前分布の下で漸近有効となるかを明らかにしたい.さらに、未知母数のいくつかが確率分布に従い、残りは定数であるとみなすhybridモデルにおいては、依然としてvan Trees型の不等式が用いられているようである(van Trees and Bell (2007)).これについても、漸近的な改良の余地があるように考えられるので、下界の改良を試みたい.また、このようなhybrid型の情報不等式については、サンプロサイズが固定のときの有効性を扱った研究は見当たらないので、こちらについても研究を進めたい.その場合、有効性の具体的な評価が難しいことが期待されるので、コンピュータによる数値実験を行いつつ、漸近的な評価の方法を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、出張が困難になったため.次年度において出張の可否が不明であるが、可能であれば旅費として使用したい
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