がん第2相試験の目的は,奏効率(腫瘍縮小効果)を主要評価項目として被験薬の有効性を評価し,第3相試験への移行の可否を判断することである.被験薬が特定の遺伝子異常を標的とする分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の場合,がん細胞の遺伝子タイプが同じであればがん種に関係なく有効性が期待できるため,複数のがん種を対象にがん種横断的に被験薬の治療効果を評価するバスケット試験が実施される.バスケット試験の主目的は,がん種ごとに奏効率が一定以上あるかを統計学的に確かめることである.このとき,「全がん種の真の奏効率は等しい」と仮定できれば,全がん種を併合して奏効率を推定すればよいが,この仮定が正しいかどうかを事前に確かめることはできない.したがって,奏効率を推定する際に,その異質性を考慮できる方法を用いる必要がある.バスケット試験が普及し始めた2015年以降,治療効果の異質性を考慮した奏効率の推定法が開発され始め,我々もベイズ流階層モデルの拡張を中心に研究を進めてきた.これまでに,ベイズ流モデル平均化に基づくデザイン,第一種の過誤確率を制御するデザインをそれぞれ開発し,その成果は生物統計学の国際雑誌であるPharmaceutical Statistics誌及びBMC Medical Research Methodology誌に採択されている.また,現在は,がん種間の奏効率の類似性をモデル化する二つのアプローチの研究を進めている.
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