研究実績の概要 |
医学研究や医療政策における「個別化医療」のひとつの実践方策として、治療に応じて変化するバイオマーカーの値や、治療へのレスポンスに基づいて適応的に治療方針(regimen, レジメン)を選択する「動的な治療レジメン」の効果を定義・推測する方法論について研究を行った。このためのアプローチには因果モデルを用いた統計的因果推論の方法論が欠かせない。特に、臨床研究データのように変数どうしがお互いに複雑な関係性を有するデータ(例:治療の結果である臨床アウトカムに応じて次の治療が決定される)に対しては、因果ダイアグラムや構造モデルを用いた統計的推測が極めて有用である。 本年度の研究では、上記の因果モデル推測に関する総説を2編著し(Shinozaki &Suzuki, Journal of Epidemiology 2020; Suzuki, Shinozaki & Yamamoto, Journal of Epidemiology 2020)、さらに追跡途中で治療が切り替わるデータを有する臨床試験・臨床研究の実データを対象とした手法研究を行った(Kawahara, Shinozaki & Matsuyama, BMC Medical Research Methodology 2020; Hagiwara, Shinozaki & Matsuyama, Biometrics 2020; Hagiwara, Shinozaki, Mukai & Matsuyama, Biometrics 2021+)。特に後者では、臨床的に意義のある効果を動的レジメンの枠組みで定式化し、追跡期間中に治療の影響を受けて変化する臨床データを用いた推定法を開発しデータ解析に適用した。これらの手法を前提とした研究デザイン、特に多段階にわたるランダム化比較試験デザインを開発することを今後の目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に関連する方法論総論・手法研究は、共著を含めて5編の英文論文にまとめることができた(Shinozaki &Suzuki, Journal of Epidemiology 2020; Suzuki, Shinozaki & Yamamoto, Journal of Epidemiology 2020; Kawahara, Shinozaki & Matsuyama, BMC Medical Research Methodology 2020; Hagiwara, Shinozaki & Matsuyama, Biometrics 2020; Hagiwara, Shinozaki, Mukai & Matsuyama, Biometrics 2021+)。さらに、査読中の研究論文として、経時測定データにおける複雑な因果媒介分析に関する研究、繰り返し治療効果の推定法における変数選択に関する研究、疫学で広く用いられる寄与割合(attributable fraction)の理論的整理を与える総説に貢献した。これらに加え、国内外の複数の招待講演において、研究した手法および概論を紹介する機会を得た(International Biometric Conference; 統計関連学会連合大会; 統計・機械学習若手シンポジウム; 日本疫学会学術総会 プレセミナー)。
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