研究実績の概要 |
医学研究や医療政策における「個別化医療」のひとつの実践方策として、治療に応じて変化するバイオマーカーの値や、治療へのレスポンスに基づいて適応的に治療方針(regimen, レジメン)を選択する「動的な治療レジメン」の効果を定義・推測する方法論について研究を行った。このためのアプローチには因果モデルを用いた統計的因果推論の方法論が欠かせない。 本年度の研究では、ランダム化臨床試験で求められる効果を動的治療レジメンの枠組みで定義して感度解析を行う手法の提案(Hagiwara, Shinozaki, Mukai and Matsuyama, Biometrics 2021)、特定治療が複数の治療結果変数(中間変数)を介してどのように結果に影響するかを、治療状況と中間変数が経時的に変化する状況に拡張した手法の提案(Yamamuro, Shinozaki, Iimuro and Matsuyama, Statistical Methods in Medical Research 2021)、繰り返し治療の効果推定において非リスク因子を統計的に調整することによるバイアス増幅現象の数値実験および実データによる定量化について原著論文を出版した(Inoue, Goto, Kondo and Shinozaki, BMC Medical Research Methodology 2022)。これらに加えて、統計専門家ならびに臨床・疫学研究者向けに「臨床研究におけるエスティマンド」(篠崎・菅波, 医学のあゆみ 2022)、「治療経過に応じて決まる治療方針の因果効果」(篠崎, 医学のあゆみ 2022)の2編の解説を著したり、2021年度の統計関連連合大会では計量生物学会企画セッション「リアルワールドエビデンスを指向した反事実因果アプローチの実践と課題」をオーガナイズするなど、研究成果の これらの手法を前提とした研究デザイン、特に多段階にわたるランダム化比較試験デザインを開発することを今後の目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題に関連する方法論研究は、4編の英文原著論文(共著)として出版することができた(Hagiwara, Shinozaki, Mukai and Matsuyama, Biometrics 2021; Yamamuro, Shinozaki, Iimuro and Matsuyama, Statistical Methods in Medical Research 2021; Khosravi, Nazemipour, Shinozaki and Mansournia, Global Epidemiology 2021; Inoue, Goto, Kondo and Shinozaki, BMC Medical Research Methodology 2022)。臨床研究では、Tsuzuki, et al.(International Journal of Infectious Diseases 2022)とTsuzuki, et al.(Infectious Diseases and Therapy, in press)でそれぞれレムデシビルとファビピラビルのCOVID-19初期症状に対する治療としての有用性を、動的治療レジメンの効果を推定目標としてデータベースから推定し議論することに貢献した。これらに加え、国内外の複数の招待講演において、研究した手法および概論を紹介する機会を得た (統計関連学会連合大会; 日本疫学会学術総会 プレセミナー; IASC-ARS; IEA-WP & JEA Joint Seminar)。 一方で、COVID-19によって物理的な学会参加ができなかったため、最新の研究に関する情報収集や他大学・他国の研究者との議論・交流が制限されたことは、自身の研究を失速させる要因ともなった。
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