研究実績の概要 |
医学研究や医療政策における「個別化医療」のひとつの実践方策として、治療に応じて変化するバイオマーカーの値や、治療へのレスポンスに基づいて適応的に治療方針(regimen, レジメン)を選択する「動的な治療レジメン」の効果を定義・推測する方法論について研究を行った。このためのアプローチには因果モデルを用いた統計的因果推論の方法論が欠かせない。 本年度の研究では、経時変化する曝露・治療データを含むデータベースを用いた解析手法の適用を中心に論文化を進めた一方で、方法論については学術集会でのシンポジウム等での報告に留まった。Takeuchi, Shinozaki and Kawakami(BMJ Open 2023)は、特定健診による肥満関連疾患の一次予防効果を検証するために、時間変化する受診状況を標的試験エミュレーションの枠組みで評価する計画論文であり、解析結果は現在投稿中である。Uemura, Ozaki, Shinozaki, et al.(BMC Infectious Diseases 2023)は、COVID-19治療薬トシリズマブの臨床試験データを、同治療薬の経時的処方情報を含むCOVID-19レジストリと組み合わせて解析した。Narita, Shinozaki, Goto, et al.(Epidemiology and Psychiatric Sciences 2024) では短期的な同居・独居状況の変化と自殺との関連を調べた。いずれも直接に動的レジメンを含むものではないが、経時変化する曝露の効果を」推測する解析に、本研究で得られた知見が役立った。学会では、米国疫学会で効果異質性による集団間での効果移送に関する研究発表を行い、統計関連学会連合大会の公募シンポジウムで「治療への反応にもとづく治療方針による介入の個別化」、日本薬剤疫学会学術総会のチュートリアルで「時間依存性交絡とその調整」、ヘルスデータサイエンス学会学術集会のシンポジウムで「標的学習の考え方と実装:因果推論×機械学習という異なる手法による観察研究データ解析」等の招待講演を行った。
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