研究課題/領域番号 |
20K11719
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
劉 言 早稲田大学, 理工学術院, 専任講師 (10754856)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 時空間データ / 局所的統計解析 / 局所グレンジャー因果性 / EEGデータ / 時変スペクトル / 主成分分析 / 高次元時系列 / 縮小推定 |
研究実績の概要 |
時空間データが簡単に取得できるようになった昨今、その複雑な構造を統計的に解析することが重要になってきている。従来の時系列解析では、定常過程の統計解析が主な研究対象であった。それに対し、本研究では、時空間データの局所構造に着目し、新たな統計解析手法を提案する。このような時空間データに対して、局所定常過程のもつ時変スペクトルを利用して、局所部分観測の統計的解析を行う。これは一種の高次元的統計解析であり、チャレンジングな課題である。本年度は昨年に続き、多変量時空間データのモデル推定論、仮説検定論を展開した。その上で、高次元時系列に対する主成分分析法の基礎を構築し、複数時系列間のネットワーク構造を推定する基礎を作り上げた。多変量時空間データの推定においては、局所的な複雑構造を捉えるため、カーネルによる重み付きホイットル尤度法を提案し、その漸近論を展開した。とくに、このような推定統計量にはバイアスを持ち、それを調整する方法を解明した。また、多変量時系列モデルに対するミニマックス推定論や縮小推定論も同時に展開した。これは従来の統計解析手法とは異なり、リスク関数を考慮する場合、従来の手法を改善する様相を示した。一方、仮説検定論においては上記のモデル推定論に基づき、局所グレンジャー因果性という新たな概念を提案した。理論面では、この新しい検定方法で用いる検定統計量に対し、漸近論的観点からその漸近分布を導くことに成功した。また、局所グレンジャー因果性の検定を、脳波データへ応用し、脳波間のグレンジャー因果性変化を、時間変化で捉えることに成功し、癲癇患者の脳波間にはどのような時間変化があったかを初めて明らかにした。以上のように、本年度は局所的変化をもつ時空間データに対し、新たな枠組みでモデル推定、仮説検定を展開し、理論的解明に留まらず、実データへも適用することにより、新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では時系列データの局所複雑構造に対する統計解析を理論的に展開していく研究を計画していた。この計画と照らし合わせると、局所構造の推定における基礎理論を構成し、その上で高次元時系列の主成分分析の理論結果を得たことでおおむね順調に進展しているといえる。また、多変量時空間データに対して、局所グレンジャー因果性という新しい概念を打ち出した。経済学では複数の現象の因果関係を解析するのに、2003年にノーベル経済学賞を受賞したクライブ・グレンジャー教授が提唱した「グレンジャー因果性」が一般的に用いられる。今回、新たに提案した局所グレンジャー因果性は線形的な関係のみならず、非線形的な因果性まで網羅した一般的な概念であり、今後は大きな反響を呼ぶことが期待される。実際、諸提案手法の実データへの適用を最終年度で行う予定だったが、インパクトのある概念をいち早く世間に知らしめるため、理論的提案、またそれに対する検 定論の理論的展開にのみ留まらず、実際のEEGデータへ適用し、その実用性を確認することに成功している。一方で、新型コロナウイルス感染症の流行により、当初予定していた国際学術交流まで展開することができなかった。そのため、共同研究の更なる推進や新しい手法の世界的普及まで目論んでいたものの、余儀なく予定変更をせざるを得ませんでした。国際交流以外にも様々な代替手段を講じたが、推進経費の不足を痛感した。とはいえ、実データにおいて、提案した手法の有用性が確認できたことは非常に大きな自信にも繋がっており、今後も計画以上に研究を進展させていく予定である。以上のことから、本年度の進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」という区分にした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画の通りに研究を推進する予定である。多変量時空間データに対する局所推定、局所検定論を素朴に展開することができたので、今後はその最適性および統計的最適推測論を構築する。また、経済・金融・気象データなど様々な分野へ本手法を適用し、他分野との連携を深めていくことにより、その実用性を高めていく。
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