時空間データが簡単に取得できるようになった昨今、その複雑な構造を統計的に解析することが重要になってきている。従来の時系列解析では、定常過程の統計解析が主な研究対象であった。それに対し、本研究では、時空間データの局所構造に着目し、新たな統計解析手法を提案する。このような時空間データに対して、局所定常過程のもつ時変スペクトルを利用して、局所部分観測の統計的解析を行う。これは一種の高次元的統計解析であり、チャレンジングな課題である。 本年度はこの2年間の研究に続き、多変量時空間データのモデル推定論、仮説検定論を展開した。従来の分散分析では、独立標本に対して展開されてきている。従属標本の局所変数間に分散に基づく変化も往々にして観測され、多変量観測の群間平均が等しいという仮説のもと、非ランダム効果・ランダム効果があるかを検出する問題に取り組んだ。時系列設定の下では、その検定統計量は局所漸近正規性が成り立たないことが知られている。そのため、漸近分布の退化を考慮した新たな検定統計量を考えることが必要であった。新しい検定統計量は時系列構造に依存せず、線形時系列モデル、非線形時系列モデルに加えて、歪な分布でも高い検出力を示す。また、実数値時系列観測の予測誤差分散を最小にするコントラスト関数を、多変量時系列観測に拡張し、その漸近理論を展開した。多変量時系列の最小コントラスト関数は実際、行列距離に対応しており、予測誤差を距離と捉えることが期待される。また、本研究の提案する最小コントラスト関数の適切性を示すため、ヘルダーの不等式の二段階適用を行った。また、理論的にはホイットル推定量が漸近的に最適であるが,数値シミュレーションでは、ホイットル尤度よりも優れる最小コントラスト関数があることを観察することができた。この結果より、多変量時系列の母数推定問題でもシュタイン現象が起きていることが予想される。
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