研究課題/領域番号 |
20K11721
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
古川 恭治 久留米大学, 付置研究所, 教授 (00416421)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リスク解析 / 生存時間分析 / Frailty model / 放射線疫学 / 発がんモデル |
研究実績の概要 |
本研究の主要目的は低線量被曝に関連したがんリスクなどの評価や予測に適した統計モデルと手法の開発である。特に、①影響修飾も含めた柔軟な放射線リスクモデルの構築、②未観測因子による不均一性のリスク推定への影響評価、③リスク予測への適用と妥当性の評価、に焦点を当てる。これら3つの課題についての令和2年度(2020年度)の研究内容と成果は以下にようになった。 ①放射線関連がんのリスクを被曝線量と年齢に関連した影響修飾因子(被曝時年齢と到達年齢)の多次元関数として考え、特定の関数形に依存しないテンソルスプラインなどの多次元ノンパラメトリック平滑化手法を用いてモデル化した。このモデルを原爆被爆者のがん罹患データに適用したリスク評価を行った結果、モデルフィットの改善とともに、放射線リスクの年齢依存性に関して、従来のパラメトリックモデルでは明確に捉えられなかった特徴がわかった。 ②放射線に関連した固形がんリスクモデルに適したfrailty modelを考案した。原爆被爆者のがん死亡率データに適用し、リスク評価を行い、未観測因子による潜在的な不均一性のリスク推定への影響を調べた。その結果、放射線リスクの年齢依存性の傾向の一部は未観測不均一性によって説明できることが示された。このようなfrailtyの考慮により、疫学研究から観察されるリスクの特徴に新しい観点からの解釈を与えることで、潜在的なバイアスの程度の検証だけでなく、放射線発がん機序の理解に役立つことが期待できる。 ③放射線関連の生涯リスク計算ツールを統計ソフトウェアRによって開発した。このツールを使って、日本における小児期診断CT被ばくの生涯リスク計算を行った。このようなリスク計算は、医療診断などでの放射線利用における意思決定においての有益な情報となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①「影響修飾も含めた柔軟な放射線リスクモデルの構築」に関しては論文執筆中であり、令和3年度中に論文誌投稿の見込みである。 ②「未観測因子による不均一性のリスク推定への影響評価」については、令和3年度に国際学会(2021 WNAR annual meeting)と国内学会(統計関連学会連合大会)において口頭発表を行う予定である。その後、令和3年度後半から論文執筆を開始する予定である。 ③「リスク予測への適用と妥当性の評価」に関しては、リスク評価ツールを開発し、今後、さまざまなモデルによるリスク予測性能の妥当性評価や比較を行うための準備を行った。 いずれも、おおむね計画通りの順調な進捗といえる。
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今後の研究の推進方策 |
①「影響修飾も含めた柔軟な放射線リスクモデルの構築」については、従来のパラメトリックモデルとの間で結果を比較することにより、従来の推定結果よりもリスクの高い(低い)可能性があるグループの同定を行う。さらに、生涯リスク予測に適用し、妥当性の検証や評価を行う。 ②「未観測因子による不均一性のリスク推定への影響評価」については、frailtyモデリングによって得られた個人レベルのリスクとその時間的傾向について放射線発がんメカニズムの立場から解釈を試みる。さらに、部位別がん罹患解析など複数の競合リスクエンドポイントにおいて互いに相関するfrailtyが存在する場合を考え、シミュレーションによって、関連するfrailtyを持つ競合リスクイベントのリスク推定への影響を調べる。 ③「リスク予測への適用と妥当性の評価」については、本研究でここまでに得られた知見を統合したリスクモデルを用いて、生涯リスクの推定を行う。特に、被爆者データから推定したリスクモデルをさまざまな被ばく集団に適用し過剰症例数予測を行う。クロスバリデーションなどの評価方法を用いて、提案手法の妥当性を慎重に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、当初参加を予定していた国際学会や国内学会が中止、あるいは、オンライン開催となったため、参加費、旅費に未使用額が生じたため。令和3年度以降の学会や研究会参加の経費に使用する予定である。
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