2020 年度実施状況報告書

可変性マイニングによる有用性優先の可変性管理手法の研究

研究課題

研究課題/領域番号	20K11756
研究機関	早稲田大学
研究代表者	岸知二早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30422661)
研究期間 (年度)	2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード	ソフトウェア工学 / ソフトウェアプロダクトライン / 可変性マイニング / フィーチャモデル / 運用プロファイルテスト
研究実績の概要	本研究の目的は、可変性マイニングによって得られる利用傾向を活用した有用性優先の可変性管理手法を提案、評価することである。具体的には、利用データを可変性マイニングすることで実際に使われる可変性の組み合わせパターンや出現頻度を論理的制約や確率情報として抽出し、そこから判断される利用傾向に関わる部分を優先的に扱う有用性優先の可変性管理手法を提案する。今年度はIoT分野への応用を意図し，様々なデバイスとBluetooth通信で接続されるシステムを対象に，接続デバイスごとの利用方法の間の可変性と利用頻度を通信ログからイニングし，それに基づきシステムのテストケースを優先度付けする手法を検討した。この手法ではBluetoothのプロファイル情報を活用し，システムの操作に関する情報をイベント系列として取り出し，系列をNグラムに分割してその単位での可変性をマイニングする。オーディオ機器を対象として提案手法を実装し，通信ログから可変性がマイニングできることを確認するとともに，それに基づいたテストケースの優先度付けが行えることを確認した。利用の確率情報だけを利用する従来の運用プロファイルと異なり，可変性情報をあわせて活用することで，ありえないテストケースを除外することができるなど，可変性マイニングならでは利点も確認できた。一方，イベント系列から取り出す手法では，システムのふるまいとの対応付けが一般的には困難であり，利用において制約がある。より実用的な手法とするためにはシステムのふるまいを表す遷移系との対応付けが重要であることも判明した。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 2: おおむね順調に進展している理由可変性マイニング手法について，以下に示すようにほぼ予定通りに研究を進めている。・応用分野として，オーディオ機器において不特定のメーカーの提供するデバイス（Bluetoothスピーカ）と接続されるミュージックプレーヤを設定した。デバイスごとに持つ機能が異なるため，使われ方にはデバイスごとに特有のパターンがあり，それら可変性をマイニングした。・通信ログはイベント系列として捉えられるため，それらをNグラムに分割し，その系列単位でデバイスごとの可変性情報を抽出した。具体的にはすべてのデバイスに共通して出現する系列単位，排他的に表れる系列単位，必ず一緒に出現する系列単位などを取り出した。利用の確率情報もこれらの系列単位で求めた。・得られた系列単位での可変性情報や確率情報から利用頻度を考慮したテストシーケンスを構成し優先度づけしたテストケース群を構成した。単に確率情報だけを利用すると実際にはどのデバイスでも起こりえないテストケースが構成されうるが，可変性情報を活用することでそのようなテストケースの排除が可能となった。・一方，コロナの影響もあり，実験や評価は必ずしも十分に行えなかった部分がある。より様々なデバイス，Bluetoothのプロファイルを活用した実験を行うことが望まれるが，それらは次年度以降の課題である。
今後の研究の推進方策	平成3年度は，前年度の検討のフィードバックを踏まえ，マイニングの手法を改良するとともに，その特性についての評価を進める。またテストなどへの応用についてさらに検討する。・イベント系列での可変性マイニングはシステムの遷移系の情報がなくても可能だが，テストを行う際にはシステムのふるまいとの対応付けが必要なため，いくつかの条件や制約を設定する必要がある。一方，システムを開発する立場からするとシステムの遷移系に関する情報があらかじめ存在する状況も多いため，その情報を活用した可変性マイニングの手法を構築する。具体的には可変性を含んだ遷移系モデルとして知られているFTS(Feature Transition System)をマイイングする。これにより，テストなどへの応用をより容易に行うことが可能となる。・マイニングされた可変性情報はボトムアップに得られるため抽象度が低い。したがって，それらをより上位の意図と結びつけることが望まれる。得られた可変性情報をよりわかりやすく整理する手法について検討する。・前年度十分にできなかった実験や評価を進める。実験では接続されるデバイスや利用するプロファイルの種類を広げるとともに，より多くのデータでの実験を試みる。またマイニングの計算量など，方式面からの評価も進める。・テストケースの構築方法には様々なものがある。前年度はその中のひとつについて評価を行ったが，さらに他の構築方法についても検討・評価を進める。
次年度使用額が生じた理由	コロナの影響のために，学会出張の費用が減少したこと，また実験も制約を受けたために謝金額も減少したことにより，次年度使用額が生じた。次年度はマイニング手法をさらに発展させるためのツールの改良，また可変性マイニングならびにその応用としてのテストの評価実験を行うためにこれらを有効に活用する計画である。