研究開始から前年度までに時系列データのクラスタリング手法のアルゴリズム選定を行い、時系列データのセグメントとクラスタリングを同時に使用可能なToeplitz Inverse Covariance-based Clustering (TICC)をその候補とした。信号源同士の近接性(階層的クラスタリング)の前段階として、基礎的な実験的評価により無線LANアクセセスポイントのBSSID毎のRSSI時系列データからTICCを用いて観測者の在室判別を行うことが可能であると見通しを得た。また、近年の無線LANの普及により多数のBSSIDが観測され、観測されたすべての系列を用いてTICCを実施すると、処理時間が現実的なものにならないこともわかり、予め使用する系列を選択するなどの前処理が有用であることもわかった。さらに、精度の向上を期待して、RSSI特徴量を近年行動認識などで注目されるWiFi CSIに拡張する検討を行った。検討の結果、次元数が大きいWiFi CSIにおいては適切な次元圧縮が必要であることもわかった。WiFi CSIを用いた他の研究はWiFiパケットの送信と受信の双方の無線機を設置する環境を想定しているものが多いが、本研究で想定する環境(パッシブシステム)では送信側は環境に予め設置されているものを使わざるをえない。この場合、WiFiのトラフィック量を制御できず、取得できる特徴量に影響を与えることもわかった。最終年度は、昨年度までの成果をさらに発展させ、Transformerを導入する検討を行った。システム実装を通して、WiFi CSIのパッシブシステムにおけるTransformer導入が可能であることを実証した。RSSI時系列データとTICCを用いた場合に比べて推定精度が十分ではなく、前処理や精度向上の課題について明らかにした。
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