研究課題/領域番号 |
20K11793
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
白石 陽 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (90396797)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高度道路交通システム(ITS) / 公共交通 / ナビゲーション / 路面状況推定 / 運転特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,MaaS (Mobility as a Service) における快適性向上のための要素技術として,モバイルセンシングデバイスを用いた道路状況および運転特性のセンシング技術を開発することである. 2021年度は,まず,快適なトータルナビゲーションを実現するための要素技術として,インソール型デバイスを用いた歩道の路面状況推定手法の改良を行った.この手法では,足裏にかかる圧力分布データを収集し,特徴量を抽出し,路面状況推定を行う.2021年度は,この手法の特徴量抽出の方式を改良することで,路面状況の分類精度を向上させることができた.また,学習コストを軽減させる方法として,収集データ数(歩数)を減らす方法を検討し,高い水準で分類精度を維持できることを示した. 次に,ドライバーの運転特性センシング技術として,前年度は時系列データの抽象化技術であるSAX(Symbolic Aggregate Approximation)に基づく分析手法の検討を進めたが,2021年度は,比較対象として非抽象化データによる分析手法を検討した.測定データに抽象化処理を施さず,非抽象化データから直接特徴量を抽出することで,抽象化手法より細かい粒度で車両挙動変化を捉えられる可能性がある.2021年度は,これらの抽象化手法と非抽象化手法の比較検討を行い,非抽象化手法においても,高精度にドライバー分類ができることを示した. さらに,モバイルセンシング結果の応用として MaaS の構成要素の一つであるライドシェアサービスに着目し,快適性(ユーザの満足度)を考慮した配車アルゴリズムを検討し,シミュレーションによる評価を行った.具体的には,ユーザのニーズに応じて最適化指標を切り替える配車手法を提案し,利便性だけでなく,ユーザ視点での経済性を重視した配車ができることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は,まず,モバイルセンシングデバイスを用いた道路状況センシング技術として,足圧データに基づく路面状況推定手法の改良を行った.前年度の検討(先行研究)では,特徴量抽出の方法として,一歩分の足圧データごとに特徴量を抽出していたが,2021年度は,一定のウィンドウ幅を設定し,そのウィンドウに含まれる複数歩の足圧データから特徴量を抽出する方式を採用した,アスファルト路面,凍結路面,積雪路面,圧雪路面を対象とした評価実験において,先行研究よりも高い精度で路面状況が分類できることを示した.また,参加型センシングによる路面状況の収集を想定した場合,学習コストの軽減が課題となるが,学習モデル構築に用いる歩数データを減らしても,一定の分類精度を維持できることを示した. 運転特性のセンシング技術として,非抽象化データによる分析手法を検討した.具体的には,非抽象化データから,運転の安定度に関する特徴量としてDTW (Dynamic Time Warping) 距離,運転操作に関する特徴量として基本統計量を抽出し,機械学習によってドライバー分類を行い,9割以上の精度で分類できることを示した.一方で,データ抽象度を変化させられるSAXを用いた手法は,計算資源の節約も期待できることから,分類精度だけでなく,処理時間やメモリ使用量の観点での比較・検討も進めた. MasSにおける代表的な交通手段としてライドシェアサービスに着目し,快適性を考慮したユーザのニーズに応じた配車アルゴリズムの検討を行った.道路状況のセンシングの結果に基づいて道路ごとの快適度が計算できれば,配車アルゴリズムへの応用も期待できる.2021年度は,基礎的検討として,利便性と経済性のそれぞれの観点を重視するユーザが混在する状況下で,最適化指標を切り替えながらユーザ満足度の高い配車を行う手法を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,MaaSにおける快適度向上のためのモバイルセンシング技術として,これまでの提案手法の改良,および,別の観点での検討を進めることで,適用可能性・実用性の高い手法の確立を目指す. まず,モバイルセンシングデバイスを用いた道路状況センシング技術として,2021年度まではインソール型デバイスを用いた歩道の路面状況推定手法を提案して来ているが,2022年度は,普及率の高いモバイルデバイスとしてスマートフォンを用いた路面状況推定手法を検討する.一例として,スマートフォンのマイクを用いた音響センシングによる歩道路面状況推定が挙げられる.また,快適度向上のための道路状況センシング技術として,眼球運動に基づく視界状況推定手法を検討する.雨天や夜間などの視界不良時には眼球運動が変化することから,眼球運動の変化に着目し,特徴量を抽出することで,ロバストな視界状況推定手法の実現を目指す. 次に,運転特性のセンシング技術としては,2021年度は,SAXに基づく抽象化データによる分析手法との比較・検討のため,非抽象化データによる分析手法の検討を進めた.分類精度の観点での比較は行うことができたが,SAXの効果が期待される計算資源(処理速度,メモリ使用量)の観点での比較は不十分であったため,2022年度も継続して検討を進める. さらに,モバイルセンシング結果に基づく快適度の高いライドシェアサービス実現に向けて,ユーザ満足度を考慮した複数の最適化指標を有する配車アルゴリズムの検討を進め,実環境データを用いた現実的なシミュレーション環境を構築し,評価実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,論文投稿した研究発表会はオンラインあるいはハイブリッドで開催されたが,感染リスクを考慮して,すべてオンラインでの参加となった.そのため,研究発表会参加のための旅費支出が不要となり,次年度使用額が生じた.2022年度の主な予算の使途としては,まず研究成果発表のための旅費・参加費が挙げられる.その他,実験機材の購入,実験協力者への謝金などが挙げられる.
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