研究課題/領域番号 |
20K11797
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
藤原 明広 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70448687)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブロックチェーン / 分散アルゴリズム / スケーラビリティ / 改ざん耐性 |
研究実績の概要 |
ブロックチェーン(BC)の非中央集権性の劣化を避けつつ,改ざん耐性とスケーラビリティを改善するBC履歴交差法を提案し,その性能を理論的に評価した. この提案手法では,第1層と第0層からなる二層構造P2Pネットワークを仮定する.第1層では,地理的に近いノード同士が空間領域(ドメイン)を構成する.ネットワーク全体をドメイン分割することで,各ドメインにおいて,より密なP2Pネットワークを構成できる.また各ドメインに属するノードは固有のBCを管理することが可能になる為,BCの分散管理によってスケーラビリティが向上する.各ドメインはそれぞれ1つの中心ノードを仮定し,このノードが第0層のP2Pネットワークに参加する.第0層では中心ノードが各ドメインのBCにおける最新の確定ブロックの状態を共有し合い,この情報を中心ノードを介して第1層に転送する.履歴交差に参加したドメインの確定ブロックの要約をヒステリシス署名を用いてBCに書き込む.従って,あるドメインのブロックを改ざんする為には全参加ドメインの関連するブロックを全て改ざんする必要がある.これにより改ざん検出と訂正が機能する下で,改ざん耐性が向上する. 本研究では,まずBC履歴交差法を行う通信プロトコルの設計を行い,第0層における分散アルゴリズムの通信計算量を見積もった.次に本提案手法の有効性を非中央集権性,スケーラビリティ,改ざん耐性の三つの観点から理論性能を評価した.BCの非中央集権性の定義は曖昧であることが多いが,我々は「全ての参加ノードがブロックを生成することでシステム全体に影響を与える可能性を持つこと」とした.この意味において,今回の提案手法では非中央集権性の劣化は最小限に留まっている.またドメインの設定を適切に行えば,理論上は改ざん耐性を確実に向上させた上で,取引処理速度はクレジットカードの処理性能を超えうることも分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的では,BC履歴交差法による改ざん耐性の理論性能評価を行うことを達成目標としていたが,これに加えて非中央集権性やスケーラビリティに関する理論性能評価も行うことができた.また提案手法を実験的に検証する為の中心ノードの参考実装も進んでいる.中心ノードが停止故障しない場合については既に実装を終えており,初期実験を開始することもできた.また研究実績で説明した内容以外にも,以下の3つの結果も得ることができた.
(1) ビットコイン型BCにおけるオラクル問題を集合知を用いて回避する方法について検討し,実験的に性能評価を行った. (2) ビットコインのスケーラビリティ問題をOn-chain技術で解決する実験ネットワークであるBitcoin Scaling Test Networkの性能評価実験を行った.未承認取引数の時間変化のデータを待ち行列理論を用いて分析した結果,取引処理の稼働率は定常的に1を超えていることが分かった.またオペコードOP_RETURNを利用して,データを含む取引を1分に1回の頻度で転送した時,取引がBCに取り込まれるまでにかかる遅延時間分布が優先権付き待ち行列理論で説明可能なことも確認した. (3) ブロックチェーン技術をコロナ感染拡大防止対策に活用する応用についても検討した.自己主権型IDと電子証明通信規格を利用することで,COVID-19抗体検査・ワクチン接種の電子証明を発行・検証する技術とそのスマホアプリについて検討を行った.このプロジェクトはOpen UniversityのKnowledge Media InstituteのJohn Domingue教授のグループが主導するプロジェクトであるが,藤原研究室ではノードを構築してBCの管理にも協力している(詳細は https://blockchain.open.ac.uk/ を参照).
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続きBC履歴交差法の実験による性能評価を進めていく.第0層のノードが停止故障しない場合において,実際にクレジットカードの取引処理速度のレベルに到達可能かどうかを,参考実装を進めている中心ノードを利用して実験的に性能評価する.また第0層のノードが停止故障する場合において,継続して履歴交差が実行可能であるかどうかについても実験的に性能評価する. 本研究課題で開発を進めているBC技術にInternet of Things (IoT)や機械学習の技術を組み合わせることで,時空間永続証明システムとして機能する具体的な枠組みについて検討を進めていく.各ドメインに属するノードに付随したIoTデバイスを利用して収集した地理情報データをBCに記録し,BC上のデータを利用した機械学習を行うことで,非中央集権性や検証可能性を持った非常に透明性の高いシステムの開発が期待できる.オラクル問題を集合知を用いて回避する方法に関する研究成果も利用することで,高度道路交通システムへの応用を視野に入れた具体的なシステムの検討を進める予定である. BC技術を活用したフェイクニュース等の誤情報・偽情報対策についても調査を開始する.BCに様々なメディアの情報を集約していくことで,情報の発信者を明確にし,かつ読者自身による情報の出処の検証可能性を向上させたネットワーク・システムの検討を進めていく.自己主権型IDや電子証明通信規格の利活用も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外の学会に出張して研究動向の調査や研究発表を行う予定であったが,コロナ禍である為に予算が使用できなかった.また学会への参加費等の支払いも大学から支給されている予算で賄うことができた為,その他の予算も使わなかった. 今後もコロナ禍が継続するが,国内学会は現地開催を行うケースも増えてきていることから,旅費として使用する予定である.また令和3年度より,実験による性能評価実験を精力的に行っていく為,ワークステーションの購入や仮想専用サーバのレンタルを行う費用として使用する予定である.
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