研究課題/領域番号 |
20K11799
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
田村 慶信 東京都市大学, 情報工学部, 教授 (20368608)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラウドコンピューティング / エッジコンピューティング / 数理モデル / 深層学習 / 最適化 |
研究実績の概要 |
現在,クラウドサービスが普及しつつあるが,クラウド関連の障害や情報事故が後を絶たない.本研究では,クラウドエッジ環境に対するジャンプ拡散過程モデルの数理的深化と高性能化を目的とし,既存研究の成果を数理的に一般化した新しいクラウド最適化フレームワークを確立する.初年度においては,複数の白色雑音をもつ多重確率微分方程式モデル,および複数のジャンプ拡散項をもつ一般化ジャンプ拡散過程モデルに対するモデルパラメータの推定手法を構築した.具体的には,バージョンアップに伴う複数回の特性変化をジャンプ項として表現した一般化ジャンプ拡散過程モデルを提案し,複数のオープンソースソフトウェア(OSS)構成要素間の相互作用を統計的独立性に基づき,白色雑音として組み込んだ新たな確率モデルを提案した.また,複数のジャンプ項に含まれる未知パラメータの推定手法として,ディープラーニングを適用し,新たなパラメータ推定手法を提案した.これにより,適切なデータ構造制約を与えることで,複数のノイズパラメータのもつ揺らぎ特性の背後にある特徴量を自動で抽出し,不規則な拡散状態の特性を解明することができた.提案手法により,OSS構成要素が外的要因として及ぼす影響や,バージョン更新に伴う特性変化を,その現象の背景にあるビッグデータに基づく観点から精細かつ定量的に評価できる.さらに,総ソフトウェア開発工数を定式化することにより,最適メンテナンス時刻の推定法を提案した.このとき,総ソフトウェア開発工数に含まれる未知パラメータの最適値を遺伝的アルゴリズムにより探索することにより,目標とする工数パラメータを自動で決定する手法も提案した.上述したように,「一般化ジャンプ拡散過程モデル」の理論解析と確立,および「深層学習によるパラメータ推定」までの研究実績について,関連する査読付学術論文誌,査読付国際会議論文などにより公表してきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はコロナ禍の影響があったが,「研究実績の概要」に示す通り,研究の進捗に関しては順調に進めることができた.具体的には,以下に示すようなテーマに基づき研究を遂行してきた.「クラウドOSSに対するフォールト修正時間の予測」,「OSSに対する大規模障害データ分析」,「オープンソースプロジェクトに対する一般化ジャンプ拡散過程モデルの提案」,「判別分析とジャンプ拡散モデルに基づくOSSフォールトビッグデータ分析」,「2次元Wiener過程モデルとGAに基づくOSS開発エフォートの最適化」,「エッジコンピューティングに対する確率微分方程式モデルに基づくパフォーマンス評価」,「フォールトビッグデータに対する深層学習に基づく統計的EVM分析」,「フォールトビッグデータに対する深層学習に基づく故障発生時間間隔の推定手法」.これらの研究成果は,多くの関連する査読付学術論文誌,査読付国際会議論文などにより公表してきた.近年,クラウドサービスにおける大規模障害が多く発生している.こうした情報事故を未然防止するため,クラウドとエッジ特有の「定常的揺らぎ」および「特異的揺らぎ」に基づくシステム評価技術を開発してきた.このとき,「揺らぎ」をノイズとして考え,複数のジャンプ項から構成される一般化ジャンプ拡散過程モデルのパラメータ推定の際に,クラウドエッジ環境から生まれたビッグデータを利用することができれば,短期に分割された期間ごとの局所的最適解を得ることができる.特に,大規模データに対して確率モデルを適用する際において,統計的な観点からデータ分析を行うことは,データ全体の傾向を把握する上で重要となる.初年度においては,統計的分析,深層学習,および確率モデルを併用することにより,様々な観点から,クラウド・エッジ環境に対する定量的なアプローチにより研究を遂行した.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,評価手法の提案を主に進めてきた.令和3年度は,初年度の提案手法の実測データに対する適合性を比較する.特に,多次元複合データから得られたノイズパラメータの推定結果を利用し,揺らぎ特性を有する稼働率やセキュリティ評価尺度を導出する.その際,実際のオープンなクラウドエッジ環境から得られた多次元複合データに基づき,提案モデルに基づく具体的な数値例を示す.特に,共同研究者である山田茂 特任教授によるモデル検証作業を行うことにより,提案された評価尺度の精度向上を目指す.これにより,従来手法では観測期間全体からしか求めることができなかった大域的近似解の精度をより一層高めることが可能となり,クラウドエッジ基盤から生じた揺らぎ特性をも解明できる.このように,従来とは異なる視点に基づき,データ駆動型アプローチと数理モデルの精緻化を融合することで,クラウドエッジ基盤における複雑なネットワーク環境を不規則変動により定量的に評価することが可能となる.目標としては,提案された一般化ジャンプ拡散過程モデルの適合性比較結果に関する論文,さらには揺らぎ特性を有するセキュリティ評価尺度に基づくシミュレーション結果に関する論文を,海外の査読付学術論文誌へ投稿する.特に,最終年度には,本研究課題の集大成として,数理モデルに関する知識がなくとも提案手法を容易に利用できるように,提案手法をOSSのツールとして実装・公開する.また,開発されたツールに対して,機能性,信頼性,使用性,効率性,保守性,および移植性という5つのソフトウェア品質特性を満たすべく,共同研究者である山田茂 特任教授により,開発されたソフトウェアツールの実利用上の検証作業を行う.さらに,ツールの機能と性能を検証するとともに得られた結果を取りまとめ,海外の査読付学術論文誌へ投稿することで成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由としては,研究代表者が行っていた確率モデルの妥当性検証作業について,より専門的かつ高度なモデル検証を可能とすべく,国内におけるソフトウェア信頼性モデル研究の第一人者として知られている鳥取大学 山田茂 特任教授にご担当頂くこととした.したがって,初年度の経費を抑えつつ,研究分担者としての次年度使用分を確保することとした.これにより,クラウドエッジ基盤だけではなく,ネットワークや信頼性という観点から,様々な要素を考慮したモデル最適化と精度向上を目指すことが可能となる.新しく研究分担者として追加する鳥取大学 山田茂 特任教授は,研究代表者と同じ分野の研究者であり,ソフトウェア工学分野における確率モデリングにおいて,多くの実績がある.また,ソフトウェア信頼性に関する数理モデル化に関しては,国内のみならず海外においても著名な研究者として知られていることから,研究分担者として適任であると考える.今後の使用計画上における役割分担としては,クラウドエッジ基盤に対する一般化ジャンプ拡散過程モデルの検証を予定している.これにより,高度なモデル検証が可能となり,様々な評価尺度の精度向上につながるものと考える.
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