研究課題/領域番号 |
20K11812
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
山場 久昭 宮崎大学, 工学部, 助教 (60260741)
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研究分担者 |
岡崎 直宣 宮崎大学, 工学部, 教授 (90347047)
油田 健太郎 宮崎大学, 工学部, 准教授 (30433410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオメトリクス / 深層学習 / 筋電位 / 個人認証 / 携帯端末 |
研究実績の概要 |
筋電位を用いた個人認証システムの実現には、予め登録されているジェスチャの波形とシステムに入力された波形を比較し、同一人物による同一のジェスチャであるか否かを判定する手法が必要である。その実現のため、以前の研究では、まず波形の特徴を表す適切な特徴量候補を選定し、それを精度よく取り出す方法として相互相関に基づく手法を開発した。その上で、サポートベクターマシン(SVM)、および、Dynamic Data Warping 法を利用した2つの方法を用いて、ジェスチャを利用した個人認証手法の開発を行っている。今年度は、この成果についてまとめた論文が国際論文誌に掲載された("On a user authentication method to realise an authentication system using s-EMG")。 この成果に続けて、この認証の精度をより向上させるため、深層学習を導入してその性能を評価する研究に着手した。ただし新型コロナウィルス感染症の流行の影響で、多くの被験者からデータを取得することが困難となったため、複数人の間でジェスチャの違いを認識することよりも、単一の被験者を対象に、その複数のジェスチャを識別することを優先し、こちらを対象に研究を進めた。その結果、SVMを用いた手法よりも性能の向上が見られ、その結果について国際会議で発表した("An attempt at an introduction of deep learning for a user authentication system using s-EMG")。 一方、認証情報として用いるジェスチャ(ハンドサイン)の選定について、日本語手話で用いられる指文字を候補として検討を進めており、本手法に適したジェスチャの検討を図った。その結果について、1編の研究報告を宮崎大学工学部紀要に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行により、2つの点で研究の進捗を妨げる影響を受けた。一つは、遠隔授業や三密回避の対面授業等、これまでとは異なった授業形態を余儀なくされ、その準備に多大な時間を取られてしまい、十分な研究時間の確保が困難であったことである。今一つは、不特定多数の他者との接触を避けることが要求されたことから、多くの被験者の筋電位を測定する実験が叶わなかったことである。前者については、卒業期の学生を指導した上で、その協力を受けながら、深層学習を用いて筋電位を識別するプログラムの開発を進めることで対応した。後者については、複数人の間でジェスチャの違いを認識することより、単一の被験者を対象に、その複数のジェスチャを識別することを優先し、こちらに絞って研究を進めるという方針を取ることとした。以上のような対処により、当初の進捗には満たないものの、研究をある程度は進めることができた。結果として、深層学習を利用することにより、以前に検討したSVMを用いた場合よりも性能の向上が見られ、その結果について国際会議で発表を行うところまで実施することができた("An attempt at an introduction of deep learning for a user authentication system using s-EMG")。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、筋電位からのジェスチャ(ハンドサイン)推定に深層学習を適用する研究を進める。具体的には、(1) 筋電位測定データの前処理プログラムの改良、(2) 高速ワークステーションのセットアップ、(3) 深層学習を用いた、単一被験者の複数のジェスチャの認識の3つを中心に行う。まず昨年度に、測定した筋電位から当該のジェスチャの箇所を切り出し、ノイズ除去ののちグラフ画像化するプログラムを作成している。ただし、得られたグラフが中央に収まらず、左右に寄ってしまう画像が得られたり、ノイズの除去が不十分であるようなケースが見られた。このような画像の質が認識率に影響することが予想されるので、高品質のグラフが描画できるように、画像化のプログラムを改良する。次に、2年目に予定していた、GPUを備えた深層学習用高速ワークステーションの購入を予定通りに行い、昨年度に購入した科学計算用ソフトウェアをインストールして計算機環境を整備する。最後に、学生アルバイトを雇用し、当該学生を被験者兼測定者として、昨年度と同様の、単一の被験者を対象とした複数のジェスチャの識別に絞った実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の流行により、大学の授業をリモートで実施するための作業負荷が大きく、研究に費やす時間は少なくならざるを得なかった。そのため、全体として予算の執行も少なめとなった。特に、参加を予定していた国際会議が中止、または、オンライン開催になったことにより、旅費の使用が皆無であった。また、不特定多数の他者との接触を避けなければならなかったため、多数の被験者を対象とした筋電位測定を行うこともできなかった。このため、被験者に対して支払う謝金、および、実験補助者に支払う人件費が発生しなかった。他、物品の購入も、深層学習を行うための科学計算用ソフトウェアの購入を予定通りに行った以外は、あまり行うことがなかった。 次年度以降も、コロナ禍下である状況を踏まえ、旅費や謝金として予定したいた予算を、筋電位計測用の機器の追加購入に振り返るなどして、効果的な執行に努めたい。
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