研究課題/領域番号 |
20K11822
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
河辺 義信 愛知工業大学, 情報科学部, 教授 (80396184)
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研究分担者 |
小田 哲久 愛知工業大学, 経営学部, 非常勤講師 (60131132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トラスト / ソーシャルネットワーク / ファジィ理論 / 分散アルゴリズム理論 / 検証 |
研究実績の概要 |
応募時の予備研究も含め,感性評価技術(FCR法)を用いたトラスト表現手法の開発を進めている.FCR法では「好きだが嫌い」という矛盾や「好きでも嫌いでもない」といった無関心を「好き」と「嫌い」の2軸でとらえ,統合値(真の「好き」の度合い)や矛盾度(評価がどれだけ首尾一貫しているか)を計算する.この考え方をもとに,本研究課題では,信用と不信の2軸でトラストを考える2次元的なトラスト値を提案している.これにより「あるSNSへの書き込み対して,基本的に信用しているが,じつは少し疑ってもいる」などの,矛盾や無関心を含むトラストの状態を,数値で表し計算することができる. トラストの移り変わりに関する性質(安全性や活性など)は,状態遷移機械の動作系列である「トレース」の集合として表現できる.たとえば「不信を買った際にのみ起こるイベント(アカウントが炎上する,など)が,トレースに一切現れない」は安全性,「いつか自分の主張を信用してもらえる」は活性にあたる.こうした,トラストの移り変わりに関する性質を効率的に分析するため,本研究では,トレース集合の包含を自動判定する手法を検討した.具体的には,トレース包含の十分条件となる状態集合間の二項関係を自動で発見するツールの開発に向け,プロトタイプを製作しながら,基礎的な検討を行った. 一方で,トラストは人の心の状態であり,これを適切に取得できるかは,その後の分析を大きく左右する.そこで本研究では,トラスト表現の基礎となるFCR法自体にも着目し,心的状態の取得に関する検討も行った.具体的には,あるクラシック音楽の特定の演奏が「鐘の音」に聴こえるとされる現象を題材に,どのような分析が可能か,基礎的な検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書では,本研究では以下の3つの項目に取り組むとしていた.そのひとつめ(項目1)は,トラストのファジィ理論的モデル化である.実際には,応募時の予備研究でその多くを進めることができ,ファジィ多項目並列評定法(FCR法)によるトラスト表現手法の開発を進めた.これまでに,トラストを「信用」と「不信」の2軸でとらえ,統合値(真の「信用」の度合い)や矛盾度(信用・不信についての評価が,どれだけ首尾一貫しているか)を計算する手法を考案した.これにより,FCR法で開発された統合値や矛盾度に基づく感性評価の手法を,トラストの定義・分析に適用できるようになった. 本年度は,項目2についての検討も開始した.具体的には,トラストの移り変わりに関する性質(安全性や活性など)を検証するための,トレース包含の自動判定法を検討した.定理証明ソフトウェアでトレース包含を検証する際には,フォワードシミュレーションと呼ばれる状態間の二項関係を見つけることが行われる.典型的には,まず人手で候補となる関係を見つけ,それが実際に求められる条件を満たすことを定理証明する.本研究では,フォワードシミュレーションの候補を自動で見つけるツールのプロトタイプを開発した.本報告の時点では,状態の表現方法などに制約があるが,今後,一般化を目指したい.このほか,研究分担者(小田)を中心に,トラスト表現の基礎となるFCR法の適用手法についての検討も行っている.あるクラシック音楽の特定の演奏が「鐘の音」に聴こえるとされる現象を題材に,心的状態をどのような取得・分析するかについての検討を行った. これらの成果を,日本知能情報ファジィ学会のソフトサイエンスワークショップ2021ほかで発表した.昨今のコロナウィルスの問題により発表回数は限られているものの,研究開発としてはおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,今年度に行った検討内容をもとに,各研究項目のさらなる高度化,あるいは完成を目指す.具体的には,分散アルゴリズム理論の手法(フォワードシミュレーション技法)に基づくトラスト安全性・トラスト活性の証明手法について,ツールの高度化・一般化を行いたい.また,申請書の項目1と2で検討するとした分析法は個別具体的な信頼度・不信度の決め方に依存しないが,実際にソーシャルメディア上のメッセージを分析する際には,トラスト値の具体的な決め方を検討する必要がある.また,「どのようにトラスト値(心的状態)を取得するか」も重要である.これらの課題について,申請書の「項目3」では,信頼度や不信度の具体的な計算方法を検討するとともに,FCR法で培われた心的状態取得のノウハウを,トラスト値の取得に応用する,としている.これに向けて,次年度よりトラストを扱う例題(シナリオ)の検討を開始したい.とくにトラスト値の計算法については,現在採用している統合値の計算方法(逆転項目平均法)以外の手法が適用できるか,さらに検討を深めていきたいと考えている.また,トラスト表現の基礎となるFCR法の適用手法についての検討についても,さらに推し進める予定である. このほか,これまでの研究開発結果についても,コロナウィルスの状況を見ながら,さらなる対外発表につなげていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の発生により,当初想定していた外国出張ができず,多くの学会もリモート開催(参加費無料など)となったため,残額が生じた. 次年度は,検証実験あるいはトラスト値分析実験に使うための小型計算機の購入を検討している.また,COVID-19にともなう状況(外国出張できるか)を見据えつつ,年度後半に向けて可能であれば外国出張にあてたいと考えている.
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