研究課題/領域番号 |
20K11822
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
河辺 義信 愛知工業大学, 情報科学部, 教授 (80396184)
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研究分担者 |
小田 哲久 愛知工業大学, 経営学部, 非常勤講師 (60131132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トラスト / ソーシャルネットワーク / ファジィ理論 / 災害メッセージ / メッセージの信用度 |
研究実績の概要 |
感性評価技術(FCR法)を用いたトラスト分析手法を開発している.実際にSNS上のメッセージを分析する際には,具体的なトラスト値の決め方を定める必要がある.本年度では,水害時の救助要請メッセージの分類(本物の救助要請と信じられるか,それとも疑わしいか)に適用するための,信用度と不信度の決め方を検討した.信用度には,詳細な住所などのプライバシ情報の出現度合いを用いた.平時においてユーザは,郵便物が届くような詳細な自宅住所の情報をSNSに書き込むことはしない.しかし水害時においては,被災者は救助を呼ぶために,そうしたプライバシ情報であってもSNSに書き込むことがある.本研究では,こうした特殊な情報の出現度合いを二次元的トラスト値の信用度として用いた.ただし,実際には詳細な住所情報がメッセージ中に現れたとしても,救助要請ではない場合もある.そこで本研究では,どのような単語が実際に救助要請メッセージに現れ,どのような単語が現れないかを調査し,不適切な単語を抽出した.一例として,本物の救助要請を引用しつつ救助完了を報告するメッセージを考えよう.このメッセージに「ご心配をおかけしました」という文言が現れたとき,命の危険を今まさに感じている者が書き込む内容と見るには違和感が生ずる.そこで,こうした文章・単語が現れる場合には高い不信度を与え,統合値(正味のトラスト値)が低くなるように調整した.この手法を,西日本豪雨時の約20万件のメッセージに適用し,適切に救助要請メッセージが抽出できることを確認した. さらに本研究では,上述の手法を大学の就活生と求人情報のマッチングに使う応用についても,基礎的な検討を行った.また昨年度に続き,クラシック音楽の特定の演奏が「鐘の音」に聴こえるとされる現象を題材に,FCR法の利用法(判定基準が「信用」「不信」などの2軸ではなく,3軸以上になる場合)を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度ではファジィ理論(FCR法)に基づく二次元的トラスト値の一般的な枠組みやその性質を検討したが,その結果を実例に適用するには,トラスト値(「信用度」と「不信度」の組)の定め方を,個別具体的に検討する必要がある.本年度では,平成30年7月のいわゆる西日本豪雨における救助要請メッセージの抽出を題材に,具体的かつ有用な二次元的トラスト値の定め方と利用法を見つけることができた. また,SNS上のメッセージに対する分析を行うなかで,信用度と不信度に異なる特徴があることも新たにわかってきた.信用度は「対象を信用できる」と評価者に思わせる証拠が多数集まった結果,少しずつ,累積的に高まっていく.これに対して,不信度は「対象を信用できない」と評価者に思わせる証拠がひとつでもあると,即座に高い値に設定される.信用度と不信度に関して,このような非対称な値の決め方をするときに,効率の良いメッセージ分類ができることがわかった.これは,FCR法の本来の使われ方(評定尺度法の拡張や,2尺度での「真偽値」の評価)で暗黙的な前提とされている「評価項目は対象である」こととは異なる特徴と言える.さらに本研究では,この考え方を大学生の就職活動支援に適用する応用についても検討した.ここでは,就活生の希望事項(求人情報とのマッチングが多くなると,信用度が高まる)と希望しない事項(勤務地に関する希望のミスマッチなど)により,信用度と不信度が決まる.ここでも,上述の「信用度と不信度の非対称な決め方」が有効となることがわかった.このほか,クラシック音楽の特定の演奏が「鐘の音」に聴こえる現象を題材に,FCR法の利用法に関する詳細を検討できた. これらの結果については,日本知能情報ファジィ学会・ファジィシステムシンポジウムや日本心理学会大会ほかで発表した.このことから,研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,水害時の救助要請メッセージの分類を題材に,実際のソーシャルメディア上のメッセージを分析するためのトラスト値の具体的な決め方を見つけることができた.今後は,最終年度であることを踏まえ,昨年度および今年度に行った検討内容をもとに研究項目のさらなる高度化・一般化を行い,また完成を目指す.開発してきた二次元的トラスト値を扱いやすいものとするため,救助要請メッセージの判定ツールの作製など,ツール化を実施したい.また,昨年度の水害時の例題のほかにも,二次元的トラスト値を利用するさらなる例題の検討も行い,適用可能性を広げる.さらに,トラスト表現の基礎となるFCR法の適用手法についての検討や,心的状態の取得の方法についての検討についても,最終年度で推し進める予定である.このほか,これまでの研究開発結果についても,コロナウィルスの状況を見つつ,さらなる対外発表につなげていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により当初計画で想定していた外国出張ができず,さらに多くの学会がリモート開催(参加費無料など)となった事情もあり,残額が生じた.次年度は,ツール化や引き続きの検証実験・トラスト値分析実験に用いるための高性能計算機の購入を検討している.さらに,コロナ禍の今後の推移を見つめてということになるが,年度後半に向けては,可能であれば外国出張による国際的な場での発表を実施したい.
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