まず,昨年度に行ったFCR法の統合値の判定法(判定基準が「信用」「不信」の2軸ではなく,3軸以上になる場合)について,実験を追加しつつ,より深い検討を行った.具体的には,まず聴覚パレイドリア課題を用いた実験を通じて,ファジィ推論における出力のデファジィ法に関する新たな手法を提案した.さらに,3軸を超える場合(とくに4項目の場合)について,並列尺度応答の分析に関する検討を行い,基礎的な結果を得た.従来では,FCR法は2項目(信用,不信)に基づく評価が専らであり,本研究課題で取り組むトラスト評価への応用においても,2項目の場合に限った議論をしていた.しかし,今年度の実験と検討を通じて,3項目以上の場合における統合値の計算方法を見つける足がかりを得ることができた. このほか,トラストの移り変わりについての分析法についても,さらなる検討を行った.本研究課題の初年度には,トラスト遷移に関する性質(安全性,活性)をトレース集合で定義し,さらにトレース集合の包含を自動判定する手法を開発している.この手法では,観測対象(人や情報など)の振る舞いのみからトラスト値を決定できるという仮定を設けていた.昨年度の救助要請メッセージの判定でも同様の考え方を用いており,モデリングの工夫により,実用上は問題ないように扱っている.しかし一般的には,対象の動作のみからトラスト値を決定できるとする仮定は強すぎる.そこで,トラストが「事実確認できない環境下で,対象が期待どおりだと観測者が信じる度合い」であることを踏まえ,観測者の主観を採り入れた,新たなモデリングを提案した.具体的には,観測対象の動作のほか観測者の動作もモデリングし,状態間の対応関係(シミュレーション関係)にトラスト値を割り当てた.これにより「観測者の振る舞いに対して,観測対象が観測者の期待する通りの反応をするか」を分析できるようになった.
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