本研究は,複数の要部で構成されるベクタ画像に対し,全体観察と要部観察の優先度を切り替える類似ベクタ画像検索システムの開発・評価を目的とする.ベクタ画像に対する類似検索のこれまでの研究は,図形の全体形状に着目する「全体観測に基づく類似検索」と人間が知覚する図形内部のまとまった部分領域(要部)に着目する「要部観察に基づく類似検索」に分類される.これらベクタ画像検索において,全体特徴,要部特徴に基づく類似照合処理が必要となり,さらに,これらの計算量増大が問題となっている.本年度は,これらの問題を解決するために必要となる要素技術として,(1)要部判定処理の精度向上および(2)検索時の照合計算の高速化について取り組んだ.(1)の要部判定処理の精度向上のために,イラストなどの抽象画像における要部を深層学習を利用して自動判定する技術を開発した.また,この技術を,人物が含まれるイラストにおける人物領域の抽出問題に応用し,高精度に自動判定するシステムを実現し,その有効性を評価実験により検証した.イラストなどの抽象画像に対する特定の領域の抽出に関しては,これまでヒューリスティックスな方法が採用され,既存手法の改良による精度向上には限界があった.一方で,本研究において実施した内容は,深層学習技術を抽象図形への要部抽出問題へと応用するものであり,その精度を大きく向上させた点が成果の一つである.また,(2)検索時の照合計算の高速化を目的として,改良動的選択モデルに基づく間接照合法を開発し,高速化を実現した.改良動的選択モデルは,昨年度までに実施してきた研究で開発・活用してきた動的選択モデルを改良したものである.新モデルは,既存モデルの高速照合処理を可能とする特性を維持しつつ,精度をより向上させた点が成果である.以上の研究成果は、国際会議・論文誌等で発表した。
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