研究課題/領域番号 |
20K11840
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
多田野 寛人 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (50507845)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鞍点型連立一次方程式 / 階層並列型数値解法 / ブロッククリロフ部分空間反復法 |
研究実績の概要 |
鞍点型と呼ばれる連立一次方程式は,係数行列が2行2列のブロック構造をもつ連立一次方程式である.問題規模が小さい場合は直接法による求解が可能であるが,大規模な場合はクリロフ部分空間反復法による求解が必要となる.係数行列の右上ブロックの列数と左下ブロックの行数が多い場合は,BiCGSTAB法などの短い漸化式を用いた反復法では残差の収束性が悪く,適用できる反復法はGMRES法などの長い漸化式を用いた解法に限られている.そのため,短い漸化式を用いた解法でも求解が可能になる手法が必要である. 2020年度は鞍点型連立一次方程式に対する反復法の適用範囲を広げるために,同方程式のブロック構造を利用した求解手法を構築した.この手法を用いることにより,鞍点型連立一次方程式の求解の主要部は複数右辺ベクトルをもつ比較的求解が容易な連立一次方程式に帰着する.この複数右辺ベクトルは互いに独立であるため,並列計算環境においてベクトルを分散することで並列に求解が可能であり,分割された問題も並列に解くことにより階層並列性をもつ数値解法となる. 2020年度は特に,提案手法による高速化について重点的に研究を行なった.求解の主要部である複数右辺連立一次方程式を高速に解くために,ブロッククリロフ部分空間反復法を適用した.ブロッククリロフ部分空間反復法は右辺ベクトル数が増加すると反復回数が減少する性質があり,複数右辺に対する演算を適切に実装することにより,クリロフ部分空間反復法よりも高速に求解が可能である.ブロック構造を利用した手法の内部問題にブロッククリロフ部分空間反復法を適用することで,従来の求解アプローチと比較して高速に鞍点型連立一次方程式を求解できることを示した.さらに,提案手法において部分的に高精度演算を適用した精度混合計算を行うことにより,大幅な計算時間の増加を回避しつつ近似解精度の向上を図った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度における本研究課題の実施項目は「1. ブロック構造を用いた手法の数理的側面の性能評価」,「2. 階層並列型数値解法の実装」である.2つの項目について進捗状況の詳細を述べる. 1. については先の研究実績の概要でも述べたとおり,ブロック構造を利用した提案手法を用いることにより,従来の求解アプローチよりも高速に求解可能であることを示すことができた.高速化の実現にはブロッククリロフ部分空間反復法の適用が不可欠であり,研究代表者のこれまでの研究ノウハウを活用することで達成できたといえる.一方で,提案手法で得られる近似解精度は,従来アプローチで得られる近似解精度よりも悪いことが確認された.これを改善するために,提案手法で生成される近似解の高精度化についても実施した.提案手法では計算過程で小規模連立一次方程式の求解が必要であり,この精度が最終的に得られる近似解精度に影響を及ぼす.この求解部分に精度混合演算を用いることで,計算時間の増加を抑えつつ,鞍点型連立一次方程式の近似解精度向上を達成することができた. 2. については,OpenMP並列によるノード内並列計算コードを実装し,筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータ「Cygnus」を用いて性能評価を行なった.さらに,複数ノードを用いた計算準備のため,MPIを用いたコードのプロトタイプを実装し,Cygnus上でのテストを行なった. 上記の通り,2つの実施項目について予定通りに研究が進んでいることから「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,「1. ブロック構造を用いた手法の数理的側面における性能向上」,「2. 階層並列型数値解法の高性能実装」を研究の柱として実施する. ブロック構造を用いた手法では,複数右辺連立一次方程式の求解高速化が全体の高速化の鍵を握る.そのため,内部で用いるブロッククリロフ部分空間反復法についても研究を進め,高速化を図っていく.また,現時点では前処理を適用していないため,更なる高速化が期待できる.しかしながら,並列計算環境下においては逐次計算を伴う前処理法では計算資源を有効活用できない.並列性をもつ前処理法について調査を進め,適用を検討する. 実装面においては2020年度に引き続き,OpenMP・MPIを用いた階層並列型数値解法コードの実装を進めるとともに,コードのチューニングを行い高性能化を図る.さらに,GPUを用いた実装についても検討を行い,更なる高速化を図っていく.
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