研究課題/領域番号 |
20K11851
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
三好 隆博 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60335700)
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研究分担者 |
高橋 博之 駒澤大学, 総合教育研究部, 講師 (80613405)
野中 千穂 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10432238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 磁気流体力学 / 高解像度数値解法 / 学際領域開拓 / 高エネルギー原子核物理学 / 高エネルギー天体物理学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、相対論的磁気流体力学に対する高解像度数値解法を研究開発し、高エネルギー磁気流体力学現象に関する次世代シミュレーション研究の基盤を構築すると共に、数値磁気流体力学を通して、高エネルギー原子核物理学と高エネルギー天体物理学の学際的な研究領域を開拓することにある。 高解像度数値解法の研究開発に関し本年度は、昨年度整備した相対論的磁気流体力学方程式に対する保存形式数値解法を実装可能な試験的コードをベースに、これまで相対論的流体力学分野で研究開発されていなかったAUSM型の数値解法[Liou, Steffen, 1993など]をはじめ、様々な高解像度数値解法について開発・検証を行った。結果として、現状では、既存のHLL近似リーマン解法[Harten, et al., 1983]、HLLD近似リーマン解法[Mignone, et al., 2009]を超える性能を持つ高解像度数値解法の提案には至っていない。 同時に学際領域における基礎・応用研究を推進した。カイラル物質と磁場の相互作用に関する基礎的研究として、昨年度に引き続き、カイラル磁気流体力学の理論解析を進めた。特に本年度は、背景一様磁場中におけるカイラルプラズマ不安定性線形成長率の背景磁場強度・角度依存性を明らかにした[日本物理学会2021年秋季大会、論文投稿準備中]。さらには、名古屋大学大学院生中村幸輝氏と共同で、Milne座標系(膨張座標系)における相対論的抵抗性磁気流体力学コードを開発し、高エネルギー原子核衝突実験に関する相対論的磁気流体力学シミュレーションの先駆的応用研究を新たに開始した[日本物理学会第77回年次大会、論文投稿準備中]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相対論的磁気流体力学に対する高解像度数値解法の研究開発については、当初の計画どおり、AUSM型数値解法をはじめ、様々な高解像度数値解法について検討した。ただし、結果として、本年度は既存の数値解法に置き換わり得る数値解法を提案するに至らなかった。 一方、学際領域研究は順調に進展した。高エネルギー原子核衝突実験においては、カイラル物質と共に巨視的スケールの強磁場が生成されると期待される。この系を単純化した背景一様磁場中における抵抗性カイラル磁気流体力学モデルを理論的に検討し、カイラルプラズマ不安定性に対する線形成長率の背景磁場強度・角度依存性を見出した。さらには、名古屋大学大学院生中村幸輝氏と共同研究により、Milne座標系における相対論的抵抗性磁気流体力学シミュレーションコードを完成させ、世界初となる高エネルギー原子核衝突実験を模擬した相対論的抵抗性磁気流体力学シミュレーションを実現した。これらの成果は現在論文投稿準備中である。 以上の理由により、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、初年度に整備した保存形式数値解法を実装可能な試験的コードをベースに新たな高解像度数値解法を進め、次世代研究の基盤となる革新的数値解法の提案を目指す。加えて、今後は非保存形式数値解法についても検討する。保存形式数値解法は衝撃波など不連続解の解像に優れる一方で、相対論的な希薄流体に対し圧力の正値性を維持することは容易ではない。そこで相対論的磁気流体力学に対する頑強な非保存形式数値解法の開発を試みる。相対論的流体力学シミュレーション研究において非保存形式数値解法は現在非主流であるが、非保存形式数値解法では保存変数から基本変数への変換計算(プリミティブリカバリー)が不要であるため、数百を超える高ローレンツ因子流れに対して頑強な数値解法が提案できれば、その波及効果は大きい。したがって、今後は保存形式数値解法と非保存形式数値解法の両面から広く高解像度数値解法を検討する。 学際領域における基礎・応用研究については、本年度に引き続き、抵抗性カイラル磁気流体力学または相対論的抵抗性磁気流体力学の理論・シミュレーション研究を推進すると共に、これまでに得られた成果を論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、当初計画していた研究打ち合わせや研究成果報告に関する出張を取りやめたため、次年度への繰越予算が生じた。感染症を取り巻く状況(少なくとも国内出張に関する状況)は改善しつつあり、状況が好転すれば成果報告出張旅費に充当する。一方、状況に改善が見られない場合、研究計画を拡大するため、計算機環境の整備・増強に充てる。
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